これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


医学日記 (2018 年度 1)

2018/04/25 非アルコール性脂肪肝炎

前回の話の続きである。 非アルコール性脂肪性肝疾患 (Non-Alcoholic Fatty Liver Disease; NAFLD) の基準として脂肪化の割合を肝細胞の「5% 以上」とする意見は、どこから来たのか。 これは、NAFLD Activity Score (NAS) (Hepatol. 41, 1313-1321 (2005).) や、 それを修正して開発された SAF score (Hepatol. 56, 1751-1759 (2012).)) が「5%」を基準として用いていることに由来するのであろう。 しかし、これらの文献を読むと、著者は単なる便宜として 5% に閾値を設けただけであって、それ未満の脂肪化は病的意義が乏しい、というようなことは述べられていない。 また、こうしたスコアは臨床試験に適用することなどを前提として作られた客観的な指標である、という点も注意を要する。 客観的、といえば、素人は「公正で正確」というような印象を持つかもしれないが、少なくとも臨床医学の場合、 これは「個々の患者の具体的な背景を無視して統計的な傾向だけをみる」という意味に過ぎない。 従って、生検に基づく診断を議論するにあたっては、この「5%」にこだわることは、病理学的ではない。

さて、NAFLD が進行すると、肝炎が起こり、肝細胞の構造が破壊される。 たとえば、肝細胞の中間径フィラメントであるサイトケラチン 8 (CK8) やサイトケラチン 18 (CK18) が、なぜか失われ、あるいは凝集する。 病理診断の観点からいえば、免疫染色で CK8/18 が陰性化したり、あるいは CK8/18 陽性の Mallory-Denk body が形成される。 こうした肝細胞の変性のことを balooning と呼ぶ。日本語では「膨化」とか「風船化」とか呼ばれるようである。 この 1) 脂肪化; 2) 炎症や繊維化; 3) balooning、の 3 つの所見が揃った状態を、非アルコール性脂肪肝炎 (Non-Alcoholic SteatoHepatitis; NASH) と呼ぶ。

NAFLD のうち、単純性脂肪肝と NASH の中間にあたる病態については、名前がない。いささか不便である。 この部分を診断する時には「NAFLD」としか言いようがないが、本来の NAFLD は、もっと広い意味であることを忘れてはならぬ。

このように、NAFLD は、単純性脂肪肝から NASH, さらには肝硬変までの、一連のスペクトラムから成る。 名前をつけて区分しているのは、単に、病勢を評価するだけの目的である。 従って、前回紹介した「病理と臨床」2017 年 3 月号で述べられているように、「NASH なのか、その手前の NAFLD なのか」という境界は曖昧であるし、 そこを厳密に診断する意義もない、ということになる。

だから、学生時代からずっと私が思っていた「NASH の概念が、よくわからない」というのは、当たり前のことだったのである。 物理学に例えれば、「青色の光は、波長でいえば何 nm から何 nm の範囲なのか、よくわからない」と言っているのと同じことである。 決まっていないのだから、わかるわけがない。


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