これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。
今日の午前は病理学実習であった。癌腫の組織像を顕微鏡で観察しスケッチする、というものであった。
名古屋大学医学部医学科における実習風景は、悲惨なものである。 最初から最後まで雑談しながら観察している者がいると思えば、 音楽を聴きながら、しかも音漏れさせながら、観察している者もいる。 時には「何を描けば良いの〜?」などという声も聞こえてくる。 彼らは、実習を何だと心得ているのか。
周囲の学生を見ると、彼らの多くは、ある共通認識を持っているように思われる。 すなわち、基礎医学や基礎科学をあまりに軽視しているのである。 正確にいえば、彼らは基礎を「重要ではないと認識している」わけではなく、何も考えていないのである。 思うに、いわゆる受験戦争の最大の弊害はここにある。 入学試験で良い点数は取れても、学問に対する基本的な姿勢が、全く身についていない。
彼らは救急救命の手技など、目に見えることがらには興味を示すし、すなわち医療に関心はあるわけだが、 解剖学や組織学・病理学などといった、目に見えない基礎医学にはあまり興味を示さない。 解剖学を知らずに、病理学を知らずに、まともな医師になれるとでも思っているのか。 それとも、単位をとれば十分であるとでも思っているのか。 免許を取ってから勉強すれば十分だとでも思っているのか。 癌の組織標本が目の前にあるのに、どうして、自分で観察しようとしないのか。 その組織にどのような特徴があるのか、何をスケッチするべきか、どうして自分で考えないのか。 自分がどれほど醜い姿を晒しているか、認識しているのか。 恥というものを、知らないのか。
一つには、先輩が悪い。 「これだけやっておけば大丈夫だよ」などと、単位を取るためのコツのようなものを後輩に伝授する先輩がいる。 確かに、それで単位は取れる。 「学生時代はあまり勉強しなかった」などと、不勉強を自慢する医師もいる。 確かに、それでも免許は取れる。 しかし、そのような医師に、名医はいるのか。眼前の患者に、眼前の病気に、きちんと対応できているのか。 恥ずかしくはならないのか。
(某教授のような例外はあるものの)教授陣も教授陣である。 学生がかくも愚かな振る舞いをしているのに、なぜ、指導なさらないのか。 昨今の学生の惨状を、なぜ、直視なさらないのか。 もちろん、このような基本的なことは、本来、大学で教わるような性質のことではない。 しかし現実に学生が蒙昧である以上、そのまま卒業させれば 将来いかに恐るべき事態が生じるか、なぜ想像なさらないのか。
東京大学を卒業して再受験で入学したある学生が「医学部は民度が低い」と言っていた。私も同意見である。 「モンスターペイシエント」なる言葉が医療業界には存在するようだが、 医師側、学生側のモラル崩壊、意識の低下も、相当なものである。
医師免許に守られて、内心では、人生の勝ち組だとでも思っているのだろう。 恥を知れ。