これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。
今日は 9 時から 17 時過ぎまで解剖を行った。我が班は、進捗が遅いのである。
ところで、名古屋大学医学部では数学や物理が一年生の必修科目であるらしい。 学生の中には、これに対し「将来べつに必要なわけでもないのに」と不満を覚える者が少なくないようだが、その認識は誤りである。
第一に臨床医にとって、物理や数学およびそれらの上に成り立つ基礎的な工学知識は必須である。 臨床において使われている医療機器の原理や仕組みについて、医師が正しく理解していなかったらどうなるか。 そんな医者に診察される患者は不安になるし、実際に事故の原因になる。 高度な医療機器というものは、説明書を読めば理解できるというものではない。 説明書を理解するためには、ある程度の工学的・物理的知識と数学的素養が必要なのだ。
第二に、医学や生命科学を学ぶ上で、物理学や数学は必須である。 生命現象は、根本的には物理的・化学的過程である。 たとえば、電磁気学の知識なしに、どうして神経伝導の機構を理解できようか。 どうして心電図を理解できようか。
もちろん、物理や数学がわからなくても、丸暗記をすれば試験で点は取れるし、心電図から疾患を見出すことも可能である。 医者になるための職業訓練という意味では、物理も数学も不要であると言えなくはない。 しかし、そのように根本的な理解を抜きに丸暗記したのでは応用が効かず、 既に確立された治療法を適用することはできても、新しい治療法を開発することはできない。 すなわち医学を発展させていくことはできない。 名古屋大学医学部は、医学の発展に貢献できる人材の育成を目的としており、 既に確立された医術を施すだけの医者になりたい者は、歓迎されないのである。
また臨床的な意味においても、大学病院で扱うような症例においては、教科書どおりの経過をたどることはむしろ少なく、 従って、臨機応変に対応せねばならない。 その場合、「こういう症状ならこう対処すれば良い」などという知識をいくら蓄えていてもだめである。 疾患を基礎から理解していなければならず、すなわち基礎医学の理解が不可欠である。 そして基礎医学の単位を取るだけでなく、きちんと理解するためには、どうして物理や数学が不要であろうか。
もっとも、「複雑な微分方程式の解法を習得する必要までは、ないのではないか」との意見に対しては、私も全面的に同意する。