これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2013/10/15 断端陰性

「断端陽性」あるいは「断端陰性」という医学用語がある。 これは腫瘍性病変を切除したとき、その切断面に腫瘍性組織がみられるかどうかを表現するものである。 切断面に腫瘍性組織がみられるならば、体内に腫瘍の一部が残存していることが確実であり、 これを「断端陽性」という。 一方、切断面が正常組織のみで構成されていれば、腫瘍の本体は切除できたと考えられ、 これを「断端陰性」という。 なお、断端が陽性であるか陰性であるかの判定は、基本的には、切除標本を顕微鏡で観察して行う。

良性腫瘍とは、腫瘍のうち、浸潤性を持たないものをいう。 すなわち、良性腫瘍は全ての腫瘍細胞が一つの塊を成しているのであるから、 断端陰性であれば全ての腫瘍細胞を切除できたとみなすことができる。

問題となるのは悪性腫瘍、すなわち浸潤性を有する腫瘍の場合である。 断端陰性であれば悪性腫瘍の本体は切除できたと考えられるが、 本体から離れてコッソリと浸潤している腫瘍細胞が存在する可能性がある。 残念ながら現状では、そうした微小な浸潤巣の有無を検査する手段は存在しない。 従って、たとえば乳癌において乳房を部分切除する場合、 断端陰性となるように切除を行うことは当然であるが、 取り残しがあるという前提で、放射線照射や化学療法を併用するのが鉄則である。

医師の中には、悪性腫瘍についても、断端陰性であることをもって「腫瘍を取りきることができた」と 表現する人がいるようであるが、この表現は不正確であるように思われる。

2013/10/28 語句修正

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