これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2013/10/24 CBT

名古屋大学医学部医学科では、四年生の年明けに CBT が実施される。 これは全国共通で、医学科生に対し実施される試験であり、これに合格しなければ病院での実習を受けることができない。 この試験はコンピューターを用いて実施され、各受験生は、それぞれ異なる問題を解くことになる。 すなわち、予め多量の問題が用意されており、それぞれの受験生は コンピューターによって無作為的に選ばれた問題を解くのである。 従って、自分と隣の受験生は別の問題に回答するわけだから、不正行為は行いにくい。

出題される問題のうち、7 割だか 8 割だかは、いわゆるプール問題から出題され、残りは新作問題だという。 プール問題とは、過去に出題されたことのある問題のことである。 従って、過去問を研究しつくせば、7 割だか 8 割だかは、容易に得点できるわけである。 そこで、過去問集のようなものを出版している会社もあり、有名なのは「Question Bank」とかいうものであるらしい。 名大医学科四年生の大半の学生は、この時期、一生懸命に Question Bank で CBT 対策を練っているようである。

誰もが内心では思っているだろうが、この CBT という試験は、あまり問題としての出来が良くない。 択一式の試験であるために様々なテクニックが使える、という問題もあるし、 症例を提示して診断名などを答えさせる問題では、いわゆる典型的な症例しか出題されないから、 疾患についてあまりよく知らなくても、要領さえ良ければ正解できる。 このような試験にイチイチ対策を講じるのは、まっとうな勉強の仕方であるとは思えない。 しかし現実的な必要に屈して、試験対策に走る学生が多いのである。

私は、自分では Question Bank などやらないが、同級生が過去問をみてワイワイやっている所に首をつっこむことはある。 先日、実に腹立たしい問題があった。女性の基礎体温について正しい選択肢を選ばせる問題で 「低温期の後に高温期が来たことから、排卵があったと考えられる。」という選択肢が誤りだというのである。 解説をみると、「薬剤や感染症などの影響により体温が変動した可能性がある。」というのである。 これは屁理屈というものであろう。 薬剤や感染で発熱を生じ得るなどということなど、医を学ぶ者にとっては常識中の常識であり、わざわざいうまでもない。 当然、そういう可能性は排除した上で議論しているものと考えるのが、あたりまえではないか。

専門外の方には、次のような例で考えていただけばよいと思う。 「たかし君は、1000 円を持って果物屋さんへリンゴを 2 個買いにいきました。 果物屋さんでは、リンゴは 1 個 300 円、柿は 1 個 200 円でした。 さて、買い物から帰ってきたとき、たかし君は何円持っているでしょうか。」 というクイズに対して、 「たかし君が予定通りリンゴを買ったかどうか言及されていないので、わからない。」 を正解とするようなものである。

こういう馬鹿げた問題に対する得点能力を鍛えることに、いったい、どれだけの意味があるのか。

2013/10/28 語句修正

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