これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2013/10/28 内職と誇り

最近、講義中に内職している同級生が非常に多い。 講義を聴くより試験対策の自習をする方が効率が良い、との考えであろう。 だが、こうした行為には、いくつかの問題がある。

まず第一に、あまりに非礼である。 時には講義中にムシャムシャと食事をするなどという蛮行を目にすることがある。 それは論外としても、わざわざ講義に出席しながら講義を無視するというのは、 対人関係における基本的な礼節が欠如していると言わざるを得ない。 また、講義中に居眠りをする者もある。私も、ときどき、不覚ながら意識を消失することがある。 だが、いくら何でも、腕を枕にして、机に伏せて眠るのは無礼であろう。

第二に、そうした効率主義は将来の「引き出し」を犠牲にしている疑いがある。 講義は、知識を習得する手段として、あまり効率が良くないのは確かである。 しかし優れた講義は示唆に富んでいるものであり、話を聴きながら、学生は各自でアレコレと思索を巡らせることになる。 そうした思考訓練の蓄積は、将来、有用な発想と工夫を与える豊かな土壌となるに違いない。

第三に、最も重要な問題であるが、コソコソと内職することにより、自らの精神を貶めていることが遺憾である。 私は常々「内職するぐらいなら欠席すれば良い」と言っているのだが、 多くの学生は「成績判定には出席点があるらしいから……」などと言う。 要するに、出席点欲しさに、出たくもない講義に出席しているわけだ。 あるいは、欠席することが何となく不安なのかもしれない。 いずれにせよ、主体性を欠き、周囲に合わせ、教員に媚びを売る卑屈な振る舞いである。 その一方で、講義を熱心に聴いている振りをするようなゴマスリまではしないのだから、実に中途半端である。

京都大学工学部の一年生から二年生にかけての二年間、私は全学共通科目、いわゆる一般教養で「漢文学基礎論」という科目を履修した。 履修登録している学生数に比べ、実際の出席者数は非常に少ないものである。 しかし、試験直前には、何か有用な情報があるのではないかと、顔を出す学生が増える。 担当の非常勤講師は、最後の講義の際、 試験において不正行為をしてはならぬ、との注意に加えて、すばらしい言葉を我々に与えた。 「たかが漢文学基礎論の単位のために、カンニングなどをして自らを貶める必要はない。 堂々と (単位を) 落としなさい。」

カンニングは論外であるが、試験対策に特化した姑息な勉強や、講義中の内職も、 自らを貶める行為である点は同じである。


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