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2013/10/01 吸入麻酔薬の薬理学 (1)

麻酔の導入の早さに関する議論である。 吸入麻酔薬は、気体として口から気管を経て肺胞に送り込まれ、そこで血中に移行し、全身に送られる。 また、麻酔の導入とは、患者に麻酔をかけることをいう。 これに対して、患者を麻酔にかかった状態に保つことを維持という。

教科書的には、吸入麻酔薬の吸入気分圧 (FI)と肺胞内での分圧 (FA)が概ね等しくなる早さをもって導入の早さとするらしい。 すなわち FA/FI が 1 になった時点で麻酔が完成したとみる。 しかし理論的観点からは、この考え方にはいささかの欠陥があるように思われる。

たとえば、FA/FI は、心拍出量が多いほど低くなり、すなわち麻酔にかかるのに時間を要するとされる。 これは、次のように解釈できる。 心拍出量が増えれば肺の血流が多くなる。従って肺胞から血中に移行した麻酔薬は速やかに体の他の部位に運び去られるため、 肺の血中における麻酔薬の分圧は低い状態に保たれる。 血中の分圧と肺胞内の分圧とは概ね一致するから、結局、FA は低く保たれることになり、 FA/FI は小さく、すなわち麻酔にかかりにくくなるのである。

これは非常に逆説的である。 麻酔薬の作用標的となる部位はいまいちよくわからないが、とにかく肺以外の神経系であることは間違いあるまい。 心拍数が多いと、麻酔薬は速やかに肺から他の部位、たとえば神経系に運搬されているわけだから、 常識的に考えれば、速やかに作用を発揮するようになりそうである。

では、どこがおかしいのか。 結局のところ、FA/FI を指標に用いることが間違いなのである。

と、思ったのだが、よくよく考えてみると、これは教科書の記述が正しく、私の考えが誤りであった。 上述のパラドックスについては、明日、説明する予定である。

2013/10/01 修正

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