これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2013/10/02 吸入麻酔薬の薬理学 (2)

吸入麻酔薬は、肺から血中に取り込まれた後、 血中からは脳や肝臓、脾臓などの Vessel Rich Group (VRG) の他、 筋肉や脂肪組織などへ移行する。 そして残った分は、ふたたび肺へと届けられることになる。

VRG は器官の大きさに比べて血管が豊富な組織である。 ここでいう大きさとは、薬理学用語でいう分布容積のことであるが、体積や質量と解釈しても、この議論ではあまり問題ない。 それに対し筋肉や脂肪組織は、大きさの割には血管に乏しい。 なお、吸入麻酔薬の標的である中枢神経系は VRG に分類されることに注意されたい。

議論を簡単にするために、血中の薬物濃度、すなわち分圧は、部位によらず一定であるとする。 VRG は血管が豊富であるから、VRG と血液の間では薬物濃度の平衡が容易に達成される。 そこで近似的に、血中の薬物分圧と VRG の組織中での薬物分圧は常に等しいとしよう。 一方、筋肉や脂肪組織は血管に乏しく、従って血中からこれらの組織への薬物の移行は緩徐であるため、 麻酔の導入時においては、これらの組織中における薬物濃度は 0 と近似してよかろう。 また、血中からこれらの組織への薬物の移行速度は、血中の薬物分圧と血流量の積と正の相関を有することに注意されたい。

以上のことから、何がいえるか。

心拍出量が増加すると血中の薬物分圧が低下するため、VRG, すなわち脳中の薬物分圧は低下する。 一方、血中の薬物分圧と血流量の積は増加することから、 筋肉や脂肪組織への薬物の移行は速くなる。 すなわち、血流量の増加により肺から全身へ運び出される薬物の量は多くなるが、 これらは専ら筋肉や脂肪組織に運び込まれるのであり、中枢神経系には到達しないのである。

このような事情により、麻酔の導入の早さは FA/FI によって評価することができるし、 心拍出量の増加が導入を遅くすることは、おかしなことではないのである。

2014/01/21 余字削除
2014/02/03 「比例」を「正の相関」に修正

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