これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2013/12/13 ハイリスクな医師

地域医療学やら法医学やらの講義の中では、医師としての倫理を説く講義が何回か行われた。 特に医療過誤訴訟の話についていえば、内容的には世間で言われているようなことを改めて説諭するものであったように思う。 すなわち、医療過誤で訴訟になるのは、たいてい、過誤そのものを問題にしているのではなく その後の不誠実な対応や、不信感を煽る言動が問題とされるのだ、ということである。 そういえば『白い巨塔』も、そういう話であった。 さて、振り返ってみると、名大医学科には若干名ながら、将来的に訴訟問題を起こしかねない危険な人物がいるように思われる。

もちろん、最も危険視されているのは私であろう。 半ば冗談ではあろうが、ある三年生から「将来、訴えられそうですよね」などと言われたこともある。 ただ、私が他の学生や教員に対して攻撃的なのは、社会に対する義務や責任についての認識に由来する いわば確信犯的なものなのであり、その矛先が患者に向かうことは、たぶん、ないと思う。 私の考えでは、医師や学生は社会正義の担い手としての責任を負うのであって、 倫理規範の欠如した同業者を咎めないこと自体が非道徳であり、それ故に、やむなく私は同業者を批判しているのである。 しかし患者にはそうした高度な倫理観は求められないから、私としては、 患者の不適切な行動を過度に咎める必要がない。

ここで問題にしたいのは私のことではなく、講義中に公然と私語を交わし、あるいは公然と食事を摂り、 またはおもむろに購買へ赴いておやつを購入し、それを堂々と授業中に食べるような学生のことである。 もし、彼らがある種の政治的信念に基づいて私語や飲食しているのならば、問題ない。 講義への出席を義務付けている大学当局へのあてつけとして、いわばアナーキズムの発現として、 精一杯の抵抗を示しているのならば、堂々とやるがよろしい。私は、そのような闘争に身を投じる若者のことが、好きである。 しかし、もし彼らが、なぜ私語や飲食が良くないのか理解しておらず、「叱られなければ問題ない」などと 本当に思って行動しているならば、残念ながら、彼らは将来ハイリスクな医師になることだろう。

遺憾ながら、大学の教員諸氏はもはや学生の振る舞いについては諦めていらっしゃるようである。 某教授などは、講義中に堂々とおやつを食べ始めた学生をみて、苦笑しながら、 いいなぁ、僕も食べたいなぁ、などと言って学生を笑わせるほどである。 大学内であれば、それで済む。

しかし、そうした素行の悪さは、やがてしっかりと身についてしまうことだろう。 医師免許を取得した途端に、立居振舞がピシャリと改善されるとは、とても思われない。 そして患者の不信を招き、怒りを買うことは、自明である。


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