これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2014/01/23 採血実習

先日、採血の実習が行われた。 学生二人が一組になり、互いの静脈血を採取しあうものであった。 私は編入生の某君の協力を得て、三度の刺入を行い、一度の採血に成功した。 血液が採血管に流入した瞬間には「アッ」という声を挙げてしまったが、何も想定外の事態が生じたわけではないので、 何が「アッ」なのか、よくわからない。 さて、私は別に採血実習を批判するつもりはないし、むしろ、たいへん良い実習だと思うのだが、 この実習の法的位置付けは際どいものであるように思われる。

採血は、多少なりとも侵襲的な行為であり、しかもこの場合は、採取した血液はそのまま捨てるのであるから、医行為でもない。 少なくとも形式的には、純粋な傷害行為である。 そこで問題となるのが、この採血が傷害罪に該当し得るのか、ということである。 被害者の同意がある場合に傷害罪が成立するかどうかについては法学的に議論があるようだが、 社会的観点から相当と考えられる場合については傷害罪は成立しない、という点では概ね一致しているようである。

従って問題となるのは、採血されることについて学生が同意していたかどうか、ということである。 たぶん、実習の際に「私は絶対に採血されたくない」と強硬に主張すれば、実習を免除してもらうことは可能と考えられる。 しかし実習にあたって私はそのような説明を受けなかった。 ひょっとすると、学生の中には気が弱くて、嫌だと言いだす機会をつかめずに採血されてしまう人がいるかもしれない。 そうした学生が後で「実は嫌だった」と言いだせば、あるいは傷害罪が成立する余地があるかもしれない。 もちろん、採血されることを恐れるようでは臨床医になるのは難しいだろうが、 医学科に入ったからといって臨床医にならねばならぬという規則はない。 医者になるならないは、個人の自由である。

些細なことではあるのだが、一応は侵襲性のある実習を行う以上、学生からきちんとしたインフォームドコンセントを得る必要があると思う。


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