これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。
少し前から疑問に思っているロイコボリン救援療法 leucovorin rescue therapy の謎について、記しておく。 高度に専門的で厳密さを要求する内容であるので、医学関係者以外の方にも理解できるような配慮は、していない。
まず、メトトレキサート methotrexate は葉酸代謝阻害薬であり、抗癌剤として用いられる。 この薬剤は細胞膜をあまり透過せず、基本的には能動輸送により細胞内へ取り込まれる。 しかし中枢神経系や精巣などの腫瘍では、血中から腫瘍への methotrexate の移行が乏しいし、 また、一部の腫瘍は methotrexate の取り込みを低下させるような変異を獲得しているため、作用に乏しい。 そこで methotrexate を大量に投与することで、受動輸送による細胞内への移行を促すという治療法が考案された。 当然、正常細胞でも葉酸代謝が阻害されることになるのだが、leucovorin を投与すると、 正常細胞は rescue され、腫瘍細胞に選択的な毒性を発揮するのである。
ここで疑問に思うべき点は、なぜ、leucovorin では正常細胞だけが選択的に rescue されるのか、ということである。
南山堂『腫瘍薬学』によれば、methotrexate は細胞内で methotrexate polyglutamate となる。 一方、正常細胞では methotrexate polyglutamate はあまり形成されないらしい。 そして、leucovorin は methotrexate monoglutamate とジヒドロ葉酸還元酵素の結合を解除するが、 methotrexate polyglutamate は leucovorin 存在下でもジヒドロ葉酸還元酵素を阻害し続ける、というのである。
結局、どうして腫瘍細胞と正常細胞の間で methotrexate polyglutamate の形成程度に差が生じるのか、よくわからない。 少し論文検索してみた限りでは、どうも、この polyglutamate については未だに謎が多いようである。 methotrexate の細胞内への取り込み低下と、polyglutamate 化の間に、何か関係があると思うのだが。
もし何かご存じの方がいれば、ぜひ、ご教示願いたい。