これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2014/03/05 アンドロゲンとエストロゲンの謎

間隔が空いてしまっているが、ゆっくりと書き物をする余裕がないため、医学的疑問を二つ挙げておくことにする。

まず第一に、『ハリソン内科学 第 4 版』 699 ページによれば、去勢治療抵抗性の前立腺癌においても、 大半の例ではアンドロゲン感受性は保っているらしい。 すなわち、増殖はあくまでアンドロゲンによるコントロールを受けているというのだ。

これは二つの点で不思議なことである。第一には、アンドロゲン感受性であるならば、どうして 去勢治療、すなわち抗アンドロゲン療法に抵抗性であるのか、という点である。 第二に、どうしてアンドロゲン不応性の前立腺癌が稀なのか、という点である。

第一の点についてはよくわからないのだが、第二の疑問については、一応の回答を考えることができる。 すなわち、アンドロゲン受容体は RAS のような G 蛋白質とは異なり、機能を保ったまま活性化する変異が困難である、と考えられる。 アンドロゲン受容体は転写調節因子であり、その活性部位が受容体とリガンドの両方にまたがっていると考えれば、 なるほど、活性化変異というものは、なかなか困難であろう。

もう一つの疑問は、女性化乳房である。 女性化乳房とは、男性の乳房が女性のように膨らむものをいうのだが、これにはいくつかの原因があるらしい。 一つ特徴的であるのは、肝硬変などによる肝機能障害により女性化乳房を来すことがある、というものである。 これについては、エストロゲンはふつう肝臓で分解されるのだが、肝機能障害ではこのエストロゲン分解能が低下し、 結果としてエストロゲン過剰状態になるため、とする説明がなされることがあるらしい。

しかし、これは説明になっていない。 ふつう、ホルモン等の産生や分泌は負のフィードバック制御を受けているので、 分解能が亢進しようが低下しようが、それほど顕著なホルモン異常は来さない。 別の言い方をすれば、エストロゲンがそれほど過剰になるほど肝機能が低下しているなら、もっと様々な、 生命にかかわる異常が生じるはずではないか、と思われる。

よく調べていないのだが、ひょっとすると、エストロゲンの産生は負のフィードバック制御を受けていないのだろうか。 というようりも、そうでなければ、エストロゲン分解能低下と女性化乳房を結びつけることは不可能である。


戻る
Copyright (c) Francesco
Valid HTML 4.01 Transitional