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2014/03/17 二世医師

言うまでもなく、国立大学医学部医学科は、現在の大学受験界においては最難関である。 すなわち、医学科生は受験界の勝者であり、エリートである。 従って、医学科生には医師としての輝かしい将来と高い報酬が約束されているのは、当然のことである。 と、考えている者がいるように思われてならない。 編入学や推薦で入学した者を別にすれば、確かに、彼らの頭脳は入学時点ではエリートであった。 しかしながら医学部在学中に、彼らは科学的思考を忘れ、ひたすら教科書を暗記するマシーンと化し、 学生としての質を失い、肉体労働者となって卒業していくように、私には感じられる。 肉体労働も尊いものではあるが、肉体労働者としては、彼らは別にエリートではない。 このように、医学部生は、大学入学以後は特段エリートでも何でもなくなっているのだが、何か勘違いしている学生が多いようで、 時に、歪んだエリート意識から来る暴言を耳にすることもある。

周囲の学生諸君をみていると、彼らは本当に医学が好きなのだろうか、という疑問が湧いてくる。 成績が優秀だったから、親や教師に勧められて医学部に来てしまっただけであり、 実はあまり医学が好きではない者が多いように思われる。 こうした学問への関心の薄さこそが、医学部生が、工学部生や理学部生に較べて低品質であるゆえんであろう。なお、農学部については、私はよく知らない。

病理学の某教授が講義中に言っていたように、学ぶということは、疑問を発するということである。 何となく環境に流されて学生生活を送っている者は、卒業するまで、ついに何も学ぶことがないであろう。 そうした学生は、やがて医術を施す労働者にはなっても、終生、医学を身につけることはなく、凡医として生涯を終えるであろう。 この意味において、私は、二世の医師や医学部生に対し、ある種の疑念を抱いている。

日本においては職業選択の自由が憲法で保証されているから、基本的には、親が医師であるからといって、子が医師になってはいけないということはない。 だが、親が医師、特に開業医で、子に医業を継がせたいと思い、子を医師にすべく育て、また子がその期待に応えてしまった場合については、非常に危険であると思う。 なぜ医学部に来たのか、と問われて「親が医者だし」というようなことを口にする者がいるが、それは「私は何も考えていない」と述べているのと同義である。 たぶん、この文章を読んでくださる人の中には、このようなパターンに該当する人もいて、二世であることの何が危険だというのか、と憤慨するであろう。 しかし、これが危険なパターンであることを理解できないこと自体が、既に、思考が歪んでしまっている証拠である。

医者の世界は、世間からみれば、いびつである。 時代錯誤の権威主義がはびこり、豊富な資金にものをいわせて政治に介入し、既得権益を守り、医師免許なる鉄壁の内側で安寧を貪っているのである。 世間の人々は、こうした医者の悪口を言っているが、さすがに医者の前では口をつぐむため、医師や二世は、それらの悪口を耳にすることはない。 そうした、狭く、世間から隔絶された医師の家に育ち、外の世界をよく知らないままに、弱冠 18 歳で医師の道を選んでしまうということは、視野の狭小なることの証左である。 二世医師の全てが凡医だというわけではないが、子が親に比肩し、あるいは親を凌ぐ例は、稀である。 おそらく、これは、親の命じるまま素直に成長し、疑問を呈する能力、すなわち物事を学ぶ能力が、磨かれないためであろう。

二世の諸君には、最低限、卒業後は親元から離れ、決して家業を継がないことをお勧めする。

2014/04/02 語句修正

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