これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。
10 月 1 日にマンモグラフィーの際に乳房を圧迫すると吸収線量は減るのか、という疑問を述べた。 本件について、ある同級生から、薄い方が少しの X 線で明瞭なコントラストを得られる、というだけの意味ではないか、と指摘された。
言いたいことはわかるし、フィルムを使ってアナログで X 線写真を扱うなら、その通りであるが、 デジタル化し、必要があればデータ処理が可能な状況においては、はたして、どうだろうか。
コントラスト自体は、デジタル処理によって、好きに修正することができる。 従って、放射線計測の統計誤差を無視して考えるならば、理論上、 X 線の強さは無限小でよく、吸収線量は 0 にすることが可能である。
もちろん、現実には、無限小の強度の X 線で写真は撮影できない。 なぜならば、統計誤差が存在するからである。 たとえば、何もない正常な領域 A を通過した X 線の光子数が 100 ± 10 であるのに対し、 腫瘤である領域 B を通過した X 線の光子数が 50 ± 7 であれば、 B は A よりも X 線を通しにくいといえる。 なお、ここで単位は何らかの方法で無次元化したものであるとする。 ここで X 線の強度を下げて、透過した X 線の光子数が A で 4 ± 2, B で 2 ± 1, になったとすると、 A と B の間で差があるのかないのか、よくわからなくなってしまう。
ここで、何らかの方法で誤差を小さくできたとしよう。すなわち 透過した光子の数が A で 4.0 ± 0.2, B で 2.0 ± 0.1 になったとすれば、 これは A の方が B よりも透過性が高いといえる。 4.0 と 2.0 の違いは、もしかすると肉眼的にはわかりにくいかもしれない。 それならばデジタル処理で信号を 25 倍に増幅すれば、A では 100 ± 5, B では 50 ± 3, となる。 これならば、くっきりとコントラストがついてみえよう。
さて、統計誤差を小さくするには、乳房内で散乱、吸収された光子の数を増やせばよい。 そのためには乳房は厚くした方が良いのではないだろうか。 換言すれば、圧迫により乳房を薄くすると、かえって統計誤差が大きくなり、 デジタル処理後のコントラストは悪化するのではないか。
とはいえ、圧迫には画像を鮮明にする等の利点があるので、 吸収線量云々に関係なく、マンモグラフィは圧迫下で撮影するべきである。