これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2014/10/09 コロンブスの卵

日本でしばしば「コロンブス」と呼ばれる男はジェノヴァ人であったが、カスティーリャ王国の支援を受けて、西洋人として初めて大西洋を渡った人物である。 その名をスペイン語風に書けば、「クリストバル・コロン」である。 当時の技術水準からすれば、大西洋を渡って「新大陸」に到達すること自体は、それほど困難ではなかったらしい。 その証拠に、コロン以降には数多くの航海者が大西洋を渡り、やがて「アメリカ」と呼ばれる大陸に入植し、交易するようになったのである。 すなわち、コロンが偉大であった点は、その航海技術の優れていることではなく、「初めて」それを行った、ということである。 初めて行うのは非常に難しいが、やり方さえわかっていれば、それを真似するのは、たやすいことなのである。

ある友人から「君は日記に色々書いているようだが、名大医学科には、実際には意欲の溢れる学生は多いのだ」ということを指摘された。 その通りであるかもしれない。 たとえば、名大医学科では、協定のある海外の大学への留学を斡旋しており、公式の手続きを踏んだ場合には、 六年次における通常の臨床実習に代えて留学することが認められている。 この留学制度の適用を申し込む学生の数は少なくないようであり、それだけ、学習意欲の旺盛な学生が多いことを示唆している。

しかし問題は、選考から漏れ、制度の適用が認められなかった場合に、それでもなお自主的に留学する学生がどれだけいるか、という点にある。 たとえば名大医学科の場合、六年生の夏以降は出席義務のある講義・実習などは殆どないため、この期間を用いて自主留学することは可能である。 こういうことをいうと、大抵の学生は「国家試験対策勉強云々」と言うであろう。 要するに、その程度の意欲なのである。二、三ヶ月の時間など、いくらでも捻出できるであろうに、そこまでして留学する意志は、ないのではないか。 それを一体、どう言い訳するのか。

制度があれば、あるいはエラい先生が斡旋すれば、彼らは、凄まじい突進力を発揮するのである。 それなのになぜ、たとえば学生 CPC の場において、挙手をして質問を提出する者が、こうも少ないのか。 「疑問を何も抱かない者」と「くだらない内容だが疑問を抱いている者」の間には、もちろん、雲泥の差がある。 そして、「くだらない疑問だからと挙手しない者」と「くだらない疑問であっても挙手する者」の間は、 紙一重の差にみえて、実は立山連峰ほどに険しい山で隔てられている。 彼らは「連峰を越える必要を感じない」と自分では言っているが、だいたいの場合、本当は「連峰を越えることができない」のである。

まぁ、東海地方の地域医療を支えるだけなら、どちらでも良いとは思うがね。

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