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2014/09/26 教科書短評

教科書の好みは人それぞれであるから、万人にオススメの教科書は存在せず、各自が好みに応じて選ぶべきである。 とはいえ、全ての本にイチイチ目を通すのも大変であるから、他人の意見も、少しは参考になるだろう。 私の場合、教科書を選ぶ際には、出版社を重視する。以下に、私が購入して気に入った教科書を、出版社別に挙げる。 ただし私は、これらの書物の全てを通読したわけではないので、ひょっとすると不適切な紹介があるかもしれない。 通読した上での書評は、卒業する頃に書くことにする。

メディカル・サイエンス・インターナショナル (MEDSi) は、米国の名著の和訳を多く出版している。 もちろん筆頭は『ハリソン内科学 第 4 版』であり、医学科生は、卒業までに、これを一度は通読するのが望ましいだろう。 ただし、翻訳が不適切な部位も散見されるので、可能であれば原書で読む方が良い。 他には『ハーバード大学テキスト 病態生理に基づく臨床薬理学』『ハーバード大学テキスト 血液疾患の病態生理』 『ハーバード大学テキスト 心臓病の病態生理 第 3 版』『体液異常と腎臓の病態生理 第 2 版』が代表的である。 これらは、臨床医学と基礎医学の橋渡しをすることを重視し、理論的に臨床医学を説明する名著である。 特に「臨床薬理学」は、臨床的に広く用いられる薬物の作用機序を、生理学の復習と共に詳述しており、全ての学生に強く推薦したい。 「血液疾患」「心臓病」「腎臓」は、いささかマニアックではあるが、これらの領域に関心のある学生にはオススメである。 『臨床神経生理学』は説明が丁寧で詳しく、わかりやすい。『エッセンシャル 免疫学 第 2 版』は、図解が良い。 『MRI の基本 パワーテキスト 第 3 版』は、MRI の原理を詳細に説明する名著であるが、いささか難解である。 多少は物理学の心得がある私にとって「いささか難解」なのだから、たぶん、高卒でそのまま医学部に入った学生にとっては「極めて難解」であると思われる。 後述する秀潤社の『決定版 MRI 完全解説 第 2 版』と併せて読むのが良い。

医学書院は、日本発の臨床医学書の出版元として、非常に信頼できる。 『医学大辞典』は、辞書として有用である。 『臨床検査データブック』は、臨床検査値に異常が出るメカニズムやレビューの紹介がなされており、医学科五年生以上ならば、常に手の届く場所に置いておくと良い。 『臨床中毒学』はやや専門性が高いが、中毒の機序や毒物動態を明快に記載しており、いざという時に役立つかもしれない。 基礎医学においても『神経解剖カラーテキスト 第 2 版』は写真が豊富で、説明も詳しく、参考になる。 医学書院で有名なのは「標準」シリーズであるが、これは国家試験を強く意識した構成になっているものが多く、知識の詰め込みになりがちであり、推奨できない。 私は、他に良い教科書がない場合に、「第二選択」として購入している。

南山堂は、臨床医学において医学書院と双璧を成す出版社であろう。 『新耳鼻咽喉科学 改訂 11 版』『TEXT 眼科学 改訂 3 版』『TEXT 麻酔・蘇生学 改訂 4 版』は、いずれも丁寧な説明が加えられており、 学部学生の教養としては充分であると思われる。 基礎医学については『解剖学講義 改訂 3 版』と『組織学 改訂 19 版』が良い。

金原出版は各種ガイドラインの出版で有名である。 『臨床検査法提要 改訂第 33 版』は、各種臨床検査の手法の解説書であり、ふと疑問が湧いた時にページをめくると良い。 『TNM 悪性腫瘍の分類 第 7 版 日本語版』は、手元にあると役に立つ。

文光堂『小児科学 改訂第 10 版』は、説明が丁寧で、機序への言及も豊かであり、たいへん、よろしい。 『血液細胞アトラス 第 5 版』は、血液疾患の顕微鏡的所見について、豊富な写真を示して解説しており、血液内科学を学ぶ上で必須である。 基礎医学では『寄生虫学 第 3 版』がオススメであるが、内容が単調であり、通読するには根気がいる。

朝倉書店は『内科学 第 10 版』で有名である。「ハリソン」より内容が少なく、読むのに時間は要しないが、マニアックな記述が乏しい。 どうしても「ハリソン」を読む気になれない人は、せめてこちらを通読するべきである。

中山書店の『あたらしい皮膚科学 第 2 版』は図や写真が豊富であり、単著であることからストーリーも一貫している。 『心エコーの ABC』は、心エコーの画像を解読する際に役立つ。

南江堂はの『血液専門医テキスト』は専門医試験対策向けということであるが、血液疾患について詳細な記述がなされており、学部学生にとっても有益である。 『NEW 法医学・医事法』は読みやすくて良いのだが、カラー写真の乏しいことが残念である。 南江堂は基礎医学において良書が多いように思われるが、私は、あまり縁がなかった。 『ネッター解剖学アトラス 原書第 5 版』は良い。 学部一年生程度の初学者であれば『シンプル生化学 改訂第 5 版』も良いだろう。

秀潤社の教科書は図解が多く、書名もいささか世俗的である。 しかし前述の『決定版 MRI 完全解説 第 2 版』の内容は、一切の妥協なしに厳密さを追求したものであり、書棚に飾って恥ずかしい類の本ではない。 『皮膚病理イラストレイテッド 2 免疫染色』も、「何を染めているのか」「なぜ、それで診断できるのか」の説明を重視したものであり、 皮膚科医や病理医を目指す学生にはお勧めである。

羊土社『スクワイヤ 放射線診断学 (Sixth Edition)』は、説明が丁寧かつ明快であり、写真も多く、放射線診断学の入門書として優れているが、 出版が 2005 年であり、いささか古いのが問題である。

東京化学同人は『生化学辞典 第 4 版』『細胞機能と代謝マップ』が臨床医学を学ぶ中で湧き起こる疑問の解決に有用である。 『ストライヤー生化学』は良書であるのだろうが、結局、キチンと読んでいない。

ELSEVIER は『ガイトン 生理学 原著第 11 版』が、生理現象を理論的に説明する名著である。 『ロビンス 基礎病理学 原書 8 版』は病理学の入門書であるが、疾患概念の説明が必ずしも明確ではない点が残念である。 また「ロビンス」は翻訳の質に一部残念な点があるため、できれば原書で読むべきである、と、名古屋大学の学生としては遺憾であるが、言わざるを得ない。

共立出版の『読影の基礎 第 3 版』は診療放射線技師を目指す学生向けだが、医学科生にも、放射線解剖の教科書として良い。 『新ミトコンドリア学』は非常に専門的なので、ミトコンドリア愛好者以外には勧められない。

Newton Press の『細胞の分子生物学 第 5 版』は、教養として、学部一年生ないし二年生にオススメである。

総合医学社『10 日で学べる心電図』は、心電図解読法を学ぶには最適である。


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