これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2014/09/23 「時給換算では安い」

一部の医師や医学科生は「勤務医の給料は、時給換算では安い」という妄言を、しばしば口にする。 私は、こういう金の話が嫌いではあるが、医師が不当にも享受している特権を批判するためには、事実関係を明らかにする必要があるため、ここに概説する。

厚生労働省の報告によれば、 医療法人が運営する一般病院における常勤医師の平均給与は、賞与を含めれば 1500 万円を超える。 国立病院ではやや低いが、それでも 1400 万円は下回らない。 なお、この調査において、いわゆるアルバイトによる収入が含まれているのかどうかは、不明である。

これに対し、国税庁の報告によれば、 正規雇用の給与所得者の平均給与は 468 万円であり、男性に限れば 521 万円である。

以上の数値を元に、勤務医の給料を時給換算で評価する。 「世間一般」の代表として男性の正規雇用労働者の給与を採用することにするが、実際には、 日本人の約半数は女性であり、しかも近年では非正規労働者が増加していることを忘れてはならない。

世間一般における残業の実態は不明であり、いわゆるサービス残業が横行しているとされるが、 とりあえずは厚生労働省の毎月勤労統計調査に基づき、 月に 10.9 時間、週に 2.5 時間の時間外労働だけが行われているとする。 週 40 時間を基準とすれば、年 2210 時間の労働を行っていることになる。 このとき、世間の正規雇用労働者の平均時給は 2357 円である。

勤務医の給与は「時給換算では安い」というのだから、医師は時給 2357 円未満で長時間労働を行い、1500 万円の給与を得ているはずである。 すなわち、週の労働時間は少なくとも 122 時間である。 休日は存在しないものと仮定しても、勤務医は一日あたり少なくとも 17.4 時間は働いていることになる。 なるほど、医師は、確かに激務である。

もしかすると、彼らは、「我々は大学受験の勝者であり、エリートなのに、それに相応の報酬を貰っていない」という意味で 「時給換算では安い」と言っているのかもしれない。 そうであるならば、まるで自分達が理学部や工学部などの人々よりも偉いかのような、とんでもない誤解である。 あるいは、「人の生命を預かる重要な仕事なのに」と思っているのかもしれない。 しかし生命を預かる仕事は医師ばかりではないし、 仮に患者が死亡したからといって、よほど重大な故意や過失がない限りは、医師が責任を問われるわけではない。

「時給換算では安い」と言っている人々は、たぶん、何かを勘違いしている。


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