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臨床医学において、しばしば出鱈目な使い方をされる用語の一つに「鑑別診断」がある。 少なくとも名古屋大学医学部医学科では、多くの学生が「鑑別診断を挙げる」などという表現を用いる。 たとえば、患者の病歴や身体診察所見に基づいて「鑑別診断を挙げ」て、さらに必要な検査について考える、という具合である。 この場合、彼らは「鑑別すべき疾患」という意味で「鑑別診断」という語を用いているのだろうが、それは誤用である。 これが全国的に行われている誤用なのか、それとも名古屋大学の方言なのかは、知らない。
医学書院『医学大辞典』第 2 版によれば、「診断」とは「面接・診察・検査などによって得られる所見に基づいてなされる疾病・病勢・予後などに関する医学的結論」をいう。 そして「鑑別診断」とは「ある症候の原因となっている疾患を, 類似した他の疾患と識別すること」である。 すなわち、他の疾患との鑑別に重点をおいて診断することを「鑑別診断」というのであるから、鑑別診断は「挙げる」ものではなく「行なう」ものである。 上述の例でいえば、患者の病歴や身体診察所見により「鑑別すべき疾患を挙げ」、さらに必要な検査を行うことで「鑑別診断する」のが正しい。
The New England Journal of Medicine の Case Records では、`the value of liver function' などの不適切な表現が慣習的に用いられている一方で、 `differential diagnosis' については、適切に使用されている。 すなわち、鑑別すべき疾患を列挙した上で、論理的に診断を行うことまで含めて `differential diagnosis' としているのである。この点は、さすがにハーバードである。