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2014/10/10 名大医学科における心電図教育

心電図の判読法には、古典的、あるいは正統法、とでもいうべきものが存在する。 流儀に若干の多様性はあるものの、調律をみて、電気軸を確定し、P 波の異常を調べ、PQ 時間を確認し……という具合である。 しかし、この方法は時間がかかる上に、臨床的に重要でない所見をたくさん拾ってしまうために、臨床医の多くは、この正統な手順を踏んでいないらしい。 正統でない判読法として有名なものに、以前に紹介した山下武志氏が『3 秒で心電図を読む本』で述べている手法がある。 山下氏は、正統法が「初心者が時間をかけながら勉強する過程ではこの順序が重要である」と認めた上で、 臨床におけるスクリーニング目的の心電図判読においては、もっと簡略化した手法を推奨しているのである。

ここで、「実際に臨床で行われている手法」にばかり目が行き、いきなり山下氏の手法を修得しようとするのは、昨今の名大医学科における悪い風潮であろう。 山下氏自身が認めているように、心電図を理解する上では、まず正統法を修得することが重要である。 しかし恐ろしいことに、名大医学科においては、この正統法を学生に教えていないのである。 というよりも、系統的な心電図の判読法自体、教えていない。

系統的な判読法を教わらないと、学生は、どうなるか。 試験では、たいてい、異常心電図を示して「いかなる疾患か」と問うような出題しかなされない。 従って、疾患名と典型的な心電図の対応関係だけを記憶するのが、効率的な勉強法となる。理屈など、いらないのである。

臨床実習において実際の心電図をよくみると、「疾患とまではいえないが異常な心電図」が多いことに気づく。 心電計の自動診断機能は、疾患を疑うような著明な異常に対する感度は高いが、こうした軽度の異常については言及しないことも多いようである。 そこで系統的な心電図判読法を修得していれば、こうした場合に、「臨床的に重要ではないが、コレコレの軽度な異常がある」と指摘することができる。 私は、こうした異常所見をイチイチ、カルテに記載することにしている。 もちろん、こうした指摘は、ただちに臨床的に役立つわけではない。 それでも、そうした軽度の異常心電図を「発見」した経験の蓄積は、やがてどこかで役立つであろう。 なにより、他人が気にしない小さな異変に自分だけが気付いている、となれば、心電図を読むのが楽しくなってくる。

このような「迂遠であっても系統的で繊細な理解の重要性」を学生に教えていないという事実は、遺憾ながら、 名大医学科における教育の質の低さを証明しているといわざるを得ない。


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