これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2014/11/11 嚢胞性膵腫瘍

やや専門的な話題が続く中で、特に今回は高度に専門的な話である。 医学の専門家でない人にはわかりにくい内容であることを、予めお詫び申し上げる。 また、いささかデリケートな内容も含まれるが、これはあくまで一学生の見解であり、医学界における共通認識ではないことを、改めて認識した上で、お読みいただきたい。

今日、ある同級生から「膵管内乳頭粘液性腫瘍」という疾患について教わった。 実は私は、そのような疾患があることを、今日になるまで知らなかった。 別の同級生から以前に名称だけ聞いたことがあったのだが、「フゥム、よくわからん疾患であるな」という程度に思い、よく調べずに放置していたのである。 この疾患については『ハリソン内科学』第 4 版では詳述されていないため、朝倉書店『内科学』第 10 版に基づいて概要を記す。

「嚢胞」とは、「袋のようになった構造物」という意味であり、肝臓や腎臓など、さまざまな臓器で形成され得る。内部には、ふつう、液体成分が入っている。 この液体成分について、糖蛋白質に富んでいれば「粘液性」といい、そうでなければ「漿液性」という。血液が入っている場合には「血性」と呼ばれる。 膵臓に嚢胞が形成されたものを、臨床的に「嚢胞性膵腫瘍」と呼ぶことがある。 ただし、病理学的には「腫瘍」とは「自律的に増殖して大きくなるもの」という意味であり、 いわゆる嚢胞性膵腫瘍の中には、厳密な意味では腫瘍ではない、つまり自律的には増殖しないものも含まれているようである。

いわゆる嚢胞性膵腫瘍のうち、内容物が粘液性のものを「粘液性嚢胞腫瘍」、漿液性のものを「漿液性嚢胞腫瘍」と呼ぶ。 また、膵管内で乳頭状の増生を示し、すなわち膵液を運ぶ管の中でニョキニョキと多数の角を生やすような格好で増殖し、多量の粘液を分泌するものを 「膵管内乳頭粘液性腫瘍」と呼ぶ。 いわゆる嚢胞性膵腫瘍には他の型もあるが、ここでは割愛する。

膵管内乳頭粘液腫瘍の成立過程は不明である。 しかし「朝倉内科学」の記述から考えると、 最初は過形成すなわち非腫瘍性病変であったものが、やがて腺腫すなわち良性腫瘍になり、腺癌すなわち悪性腫瘍になるのではないかと推定される。 「朝倉内科学」によれば、膵管内乳頭粘液腫瘍が悪性化した場合、切除しても 60 % 以上の例で再発するという。 この記述を信じるならば、良性であると悪性であるとにかかわらず、可能であれば、膵管内乳頭粘液腫は切除するのが良いように思われる。

しかし帝京大学附属病院 肝胆膵外科などによれば、 症状がある場合や悪性が疑われる場合は切除するものの、良性で早期であるならば経過観察とすることも多いという。 そのように対応されることの根拠は、公益財団法人 がん研究会によれば、 膵管内乳頭粘液腫瘍は「がん化していても膵管の中にがんがとどまっていることが多いため、ポリープを残さないように切除すれば 100% 近く治すことができ」るためらしい。

このように、膵管内乳頭粘液腫瘍の取り扱いはイマイチよくわからないのであるが、それもそのはずである。 「朝倉内科学」が挙げている参考文献をみると、「この疾患にどう対応すれば良いか、未だ定説はなく、議論がある」という意味のことが書かれているのだ。


戻る
Copyright (c) Francesco
Valid HTML 4.01 Transitional