これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2014/11/09 感度と特異度についての注意点

11 月 10 日の記事も参照されたい。

診断学では、疾患と検査について「感度」と「特異度」の概念が重要である。 診断学の場合、「その疾患を有する患者において、その検査結果が陽性となる頻度」を「感度」といい、 「その疾患を有さない患者において、その検査結果が陰性となる頻度」を「特異度」という。 ここで重要なのは、感度や特異度は、その検査の対象となる集団によって大きく異なる、ということである。 遺憾ながら現在の医学教育では統計学は非常に軽んじられているため、この重大な事実をよく理解していない医師や学生が少なくないようである。

いくつかの架空の例で、「咳がある」という症状が、「上気道炎」つまり感冒に対して、どの程度の感度と特異度を有するかを考える。 まず、ある小児科医院で統計をとったところ、「感度 60 %, 特異度 95 %」という結果になった。 つまり「感冒である人の 60 % は咳をしており、感冒でない人のうち 95 % は咳をしていない」ということである。 この数値からは「咳をしている人は、まぁ、たぶん、感冒である」といえるが、「咳をしていない人は感冒ではない」とはいえない。

次に、試合を終えたプロのサッカー選手を対象に調べてみたところ、「感度 10 %, 特異度 99 %」となった。 どうして小児科医院の例より感度が低く、特異度が高くなったのかというと、咳をしていて感冒を疑われるような選手は、試合に出ないからである。 この集団では、感冒の「典型的な症状」は「軽度の発熱はあるが咳はない」というようなものであるから、咳の感度は低いのである。

そして某大学病院で調べてみたところ、今度は「感度 60 %, 特異度 30 %」となった。感度は小児科医院と同程度であるが、特異度が低いのである。 これは、大学病院では肺炎やら肺癌やら、感冒以外の原因で咳をする患者が多いからである。 従って、小児科医院の場合とは異なり「咳をしているからといって、感冒であるとはいえない」ということになる。

このように、感度や特異度は対象とする集団の性質によって大きく異なるのだから、 眼前の患者を診断する際に、教科書に記載されている感度や特異度の値をそのまま使うのは不適切である。 このあたりの問題については『マクギーの身体診断学』などの教科書にも明記されてはいるのだが、よく認識していない学生が多いのではないか。 特に、身体診察を重視する総合診療医を目指す学生は、この点をよく注意するべきである。


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