これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2015/02/22 アトピー性皮膚炎と自家感作性皮膚炎

一年以上前から、慢性皮膚炎を患っている。 当初は膝窩に限局していたが、後に会陰部、上肢、臍周囲にも皮疹を生じた。 昨年春に、実習の一環として血球算定を行ったところ、著明な高好酸球血症がみられた。 これらの所見から、私は、アトピー性皮膚炎であろう、と考えていた。 ただし、私の場合は首から上は無症状であり、アトピー性皮膚炎としては、やや非定型的である。 私は医者嫌いなので、医療機関は受診していなかった。 昨年 1 月から、薬局で購入した外用グルココルチコイド剤を使用しており、春頃からは、アレルギー性鼻炎用の抗ヒスタミン剤を off-label で使用していた。 いうまでもないことだが、こうした自己判断での薬剤の長期使用は、危険なので、やめた方がよい。

以前にも書いたが、アトピー性皮膚炎とは、アトピー素因を背景に生じる皮膚炎をいう。 アトピー素因とは、アレルギー反応を来しやすい遺伝的素因をいう。 従って、アトピー性であることを厳密に証明するためには遺伝子を調べる必要があるのだが、臨床的には、それは行われていない。 そもそも、現時点ではアトピー素因に関係する遺伝子が、フィラグリン filaggrin の他にはあまりよく知られていないため、調べようがない。 このため、臨床的には「アレルギー性皮膚炎」という意味で「アトピー性皮膚炎」という言葉が使われているように思われる。

さて、私の皮膚症状は一向によくならず、むしろ増悪傾向にあり、しかも最近では両側手背にも著明な皮疹が生じ、実に見苦しくなってきたので、観念して近医を受診した。 その医院の待合室に「にんにく注射, ビタ C 注射, はじめました」というような掲示がしてあるのをみて、私は「さては、ヤブ医者だな」と思った。 「にんにく注射」とは、ビタミン B1 の注射であるという。「ビタ C」とは、ビタミン C のことであろう。 ビタミン B1 やビタミン C の注射に疲労回復などの効果があるという医学的根拠はないし、理論的にも、そのような効能は考えられない。 実際に経験した人の中には「よく効くよ」などと言う者もあるらしいが、それは、プラセボ効果である。 「にんにく注射」などの商売に手を染める者を、私は、まっとうな医者とは認めない。

その医者は、私の上下肢の病変を視診し、膝窩や肘窩に皮疹がないことから「自家感作性皮膚炎であろう」と診断した。 自家感作性皮膚炎とは、もともと限局していた皮膚炎から、何らかの抗原が播種され、全身に皮疹が多発するものをいう。 「何らかの抗原」とは、炎症により生じた変性自己蛋白質や、外因性の病原体が考えられる。 播種された先でも抗原が産生されるようになると、慢性の経過をたどることになる。 アトピー性皮膚炎は外来抗原に対する免疫応答が持続しているのに対し、 自家感作性皮膚炎は一種の自己免疫性疾患といえよう。

では、両者をどのように鑑別するか。 アトピー性であるならば、外来抗原の刺激を受けやすい部位、たとえば膝窩や肘窩がいずれも健常であることは、考えにくい。 私の場合、当初は膝窩に湿疹を来し、これはアトピー性であったと考えられるが、その後は膝窩も肘窩も健常であった。 このことから、アトピー性皮膚炎に続発して自家感作性皮膚炎を来したものと考えられる。 私は、自家感作性皮膚炎という疾患自体は知っていたが、自分がそれであるとは、考えていなかった。 しかし、言われてみれば、これはアトピー性よりも自家感作性と考えた方がもっともらしい。 あの医者は、胡散臭いが、診断は確かである。

私は、外用プロピオン酸デキサメタゾンと内用エピナスチンを処方されて、家路についた。 前者は very strong に分類されるグルココルチコイドであり、後者は抗ヒスタミン薬である。 いわゆるステロイド剤は、「患部への移行しやすさ」によって strongest から weak の五段階に分類されている。 これは、薬の「作用の強さ」を表しているわけではないことに注意が必要である。 私が処方されたのは、二番目に強い群の very strong に分類されるものである。


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