これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2015/02/13 副腎不全

10 月 3 日の記事も参照されたい。

副腎不全は、しばしば、医原性に生じる。 臨床的に特に注意を要するのは、グルココルチコイドからの離脱による副腎不全であろう。 医者の中には、グルココルチコイドのことを「ステロイド」と呼ぶ者もいるが、 本当は、ステロイドといえばミネラルコルチコイドやアンドロゲンも含む。 従って、グルココルチコイドの意味で「ステロイド」と表現するのは、不適切である。 ただし、グルココルチコイド活性に比べて有意なミネラルコルチコイド活性を有するような薬剤の場合、他に適切な表現がないから、「ステロイド」と呼ぶのも合理的である。

さて、膠原病などの治療を目的として、グルココルチコイドを経口投与、すなわち全身投与することがある。 ここでいう全身投与とは、軟膏などによる局所投与に対して、全身の臓器に行きわたらせる、という意味である。 こうした外来のグルココルチコイドは、下垂体からの AdrenoCorticoTropic Hormone; ACTH の分泌を抑制する。 その結果、副腎は萎縮し、機能低下するが、これは通常、可逆的である。 いきなりグルココルチコイドの投与をやめると、内因性のグルココルチコイドが充分に産生されないため、重度の血圧低下などを来し、時に、生命を脅かす。 これが急性副腎不全である。 従って、グルココルチコイドから離脱する際には、投与量を漸減し、長い時間をかけて離脱する必要がある。 注意すべきは、臨床的には「グルココルチコイドの投与をやめたことで、急性副腎不全を来した」というように表現されるが、 副腎の機能低下は、本当はそれよりもはるか前に生じており、外因性のグルココルチコイドによりマスクされていた、という点である。

臨床的には、副腎不全では低ナトリウム高カリウム血症を来すことがあるという。 これは、副腎がグルココルチコイドだけでなく、アルドステロンも産生しなくなっているからである、と説明する文献があるらしい。 しかし、通常、アルドステロンは ACTH に反応して分泌されるものではない。 どうして、グルココルチコイドがアルドステロンの産生も低下させるのだろうか。

私は、この問題についてキチンと調べてはいない。が、食卓での話題として、ある友人と、この問題を議論したことがある。その時、彼は、実にもっともらしい仮説を述べた。 生理的には、コルチゾールは腎臓では可逆的に酸化されて、不活性のコルチゾンとなるため、ミネラルコルチコイド活性を発揮しない。 しかし、ミネラルコルチコイド活性を有する大量のステロイド薬を投与した場合、 不活化されずに残ったわずかの活性型ステロイドが、充分に高いミネラルコルチコイド作用を発揮するであろう。 このとき患者は、腎機能障害などがなければ重大な高ナトリウム血症は来さないと考えられるが、時に重度の低カリウム血症を来し、 カリウムの投与も受けるかもしれない。 このような状態では、生理的なアルドステロンの分泌は高度に抑制されている。 それが長期に及べば、副腎皮質の球状帯は萎縮し、アルドステロン分泌能は著しく低下するであろう。 この状態で突然、ステロイドの投与をやめれば、急速に低ナトリウム高カリウム血症を来すことになる。

彼の仮説は、少なくとも部分的には、クッシング病からヒントを得たものであろう。 クッシング病とは、機能性下垂体腺腫などにより ACTH が過剰分泌されることでコルチゾール過剰となるものをいう。 このとき、腎臓において不活化されずに残っているコルチゾールが有意なミネラルコルチコイド活性を発揮し、低カリウム血症を来すことがあるという。 ナトリウムについては、アルドステロン以外の調節機構が亢進するため、著明な高ナトリウム血症は来さないことが多い。

もし、彼の仮説が正しいならば、ミネラルコルチコイド活性が充分に低いステロイドを投与されていた患者の場合、 副腎不全であっても低ナトリウム高カリウム血症は来さない、ということになる。 また、ステロイド投与中に血中アルドステロン濃度は低下し、その一方で低カリウム血症を来しているはずである。 こうした点も含めて、いずれ、キチンと調べてみようとは思っているが、一般的な教科書等には、詳細な記述がない。 適切な文献をご存じの方は、ぜひ、教えていただきたい。

2015/02/14 語句修正

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