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2015/02/12 たこつぼ型心筋症

「たこつぼ型心筋症」は、いささか、ふざけた名前であるようにも感じられるが、正式な医学用語であり、英語では takotsubo cardiomyopathy と呼ばれる。 「心筋症」とは、何らかの事情により心筋の機能障害を来す病態をいう。ただし、ふつうは、虚血性心疾患は心筋症に含めない。 「たこつぼ型心筋症」は、何らかの原因により、左室心尖部付近の収縮障害および心基部の過収縮を呈する病態をいう。 多くの場合、たこつぼ型心筋症は、交感神経系の過剰な興奮によって惹起されると考えられているが、詳細な機序は不明である。 通常、たこつぼ型心筋症は可逆的変化であり、2 週間程度で回復する。 このことから、本症の本質は刺激伝導系の異常ではなく、心筋細胞自体の可逆的変性であると考えられる。

心筋細胞の可逆的変性、という言葉から想起されるのは、虚血性心疾患で生じる stunning myocardium (気絶心筋) や hibernating myocardium (冬眠心筋) である。 『ハーバード大学テキスト 心臓病の病態生理』によれば、両者は、次のようなものである。 壊死を来さない程度の著しい虚血が起こると、詳細な機序は不明であるが、血流が回復しても、心筋細胞の収縮障害は持続することがある。 これは心筋細胞の可逆的な変化によるものであると考えられ、徐々に回復する。これを stunning という。 これに対し慢性的な血流低下も心筋細胞の収縮力を低下せしめ、これを hibernation という。 たぶん、たこつぼ型心筋症においては、心尖部、すなわち冠状動脈の末梢において stunning が生じているのであろう。 しかしながら、なぜ、梗塞せずに広範な stunning が生じるのかは、よくわからない。

さて、少なくとも現代の医学水準においては、心電図によって虚血性心疾患、特に心筋梗塞と、心筋症とを鑑別することは不可能である。 なぜならば、梗塞した部位と、心筋細胞は生存しているが活動低下ないし停止した部位とは、電気的な活動についていえば、ほとんど同等であるため、 同様の心電図変化を呈するからである。 従って、たこつぼ型心筋症と診断するためには、心エコーや冠状動脈造影によって、虚血性心疾患の可能性を否定する必要がある。

臨床的には、たこつぼ型心筋症は特別に珍しいものではないらしいから、臨床医ならば、かかる疾患群の存在をよく知っておく必要があるだろう。 その一方で、たこつぼ型心筋症の本質、特に病理学的実体は未だ不明である。 従って、我々は「たこつぼ型心筋症」という診断に満足することなく、その本態を解明すべく、探究する心を忘れてはならない。

2015.02.22 誤字修正

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