これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。
血液凝固の件は、少しばかり手のかかる仕事になるので、いましばらく、お待ちいただきたい。
昨日の記事で、学生が早期に臨床的な手技を学ぶことはいかがなものか、という旨のことを記したが、 これは四年生や五年生で、基礎的な縫合・結紮や血圧測定などの実技を学ぶことを批判しているものではない。 これらは臨床実習において必要な技能であるから、むしろ、習得するべきである。 私が批判しているのは、いわゆる埋没縫合であるとか、気管切開であるとか、中心静脈穿刺であるとか、そういう高度な手技のことである。
特に、中心静脈穿刺のトレーニングとして、超音波ガイドを使わない盲目的穿刺を行うこともあるようだが、これは、歴史教育を意図しているのでなければ、無意味であろう。 かつて超音波断層撮影装置がなかった時代には盲目的穿刺が普通であったから、その時代に育った医師の中には 「ブラインドで十分正確に穿刺できるし、速くてやりやすい」と主張する者もいる。 しかし現代においては、超音波ガイドを使わない利点はない。 「ブラインドでイケる」などと主張するのは、患者のことを考えず、ただ自らの技量を、誤った方法で誇示しているに過ぎない。
さらに、特に市中病院や医院での実習において、学生に皮下注射などの侵襲的手技を実施させる例があるらしい。 これは、教育云々以前に、違法である疑いがある。
まず前提として、注射を行うという行為は、原則として犯罪、すなわち傷害罪にあたる。 ただし医師や、医師の指示の下に看護師が行うような場合には、医師法等の規定により、傷害罪の適用対象外となる。 なお、看護師が注射を行うことについては議論があるが、近年、行政解釈の変更により、容認されるようになった。 さて、学生は医師でも看護師でもないから、基本的には傷害罪または医師法違反である。 ただし、教育上の相当な必要がある場合には、医師の監督の下で行われる限りにおいて、違法性は阻却されると考えられている。 この場合も、学生が行うことについてインフォームドコンセントがなされていない場合は、違法性を免れ得ない。
しかし遺憾ながら、私が他の学生から聞いた限りでも、医師がキチンと監督していない例や、インフォームドコンセントがなされていない例が、少なくないようである。