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2015/02/08 医師の資質と医学部の理念

以前、某大学の医学部編入試験を受けた際に、集団面接で「良い医師になるためには、最も重要な資質は、どのようなものだと思うか。」と問われたことがある。 何人かの受験生が「思いやり」あるいは「優しさ」というような意味のことを答えていたように思う。 私は「物事の本質を適切にみぬく能力」を挙げた。 その理由として「なぜ、そのような疾患が生じるのか、あるいは、なぜ、その薬が効くのか、ということを、正しく理解することが重要である。 そうでなければ、非典型的な症状を呈する患者に対し、適切に対応することができない。」ということを述べたように記憶している。 明確には意識していなかったが、私は当時から、病理学や薬理学の正しい理解なしには、適切な治療を行うことができない、という考えを持っていたようである。 遺憾ながら、現在の医師国家試験では病理や薬理は軽視されているようであり、学生も、臨床的な事項の暗記に走り、基礎医学を軽んじる傾向があるように感じられる。

もっとも、医師として重要な能力は、どのような医療機関で働くかによって、異なるであろう。 たとえば開業医や、小規模病院で、軽症の、典型的症候を呈する患者を中心に診療し、よくわからない患者は大病院に紹介する、という医師であるならば、 非典型的な症例への対応は放棄してしまうことができる。 その場合、病理学や薬理学を理解していなくても、業務に支障はない。 むしろ、地域に密着し、住民や患者との距離を縮めることが重要であるとすれば、思いやりや優しさこそが、最も重要な能力であるかもしれない。 逆に、大学病院などで高度に専門的な医療に従事するならば、思いやりも重要ではあるが、それ以上に、医学を基礎から臨床まで幅広く適切に修得していることが求められよう。 結果として、某病院の某部長が言うように、 小規模病院や開業医には、思いやりがあって優しいが診療能力は「それなり」の医師が多く、 大規模病院では、人格にいささかの問題があっても診療能力の高い医師が多く、なるのであろう。

地域に密着して医療を提供する医師も、大病院で高度に専門的な医療を提供する医師も、どちらも社会にとっては必要である。 たとえば愛知医科大学の場合、 医学部の理念として 「新時代の医学知識,技術を身につけた,地域社会に奉仕できるヒューマニズムに徹した医師及び医学指導者の養成を目的とする」ことを掲げており、 どちらかといえば前者の、地域に密着した医師の養成を主目的としているものと考えられる。 これに対し我が名古屋大学医学部では、 パンフレットの中で、 「名古屋大学医学部の理念」の筆頭に「人類の健康の増進に寄与する先端的医学研究を進め、新たな医療技術を創成する」ことを挙げている。 どちらが優れているというものではないが、愛知医科大学と名古屋大学医学部では、その理念が大きく異なるのである。

2015/02/15 語句修正

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