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細胞診とは、患者の病変に細い針などを刺して細胞を採取し、それを顕微鏡で観察することにより、いかなる疾患であるかを診断するものをいう。 組織診との違いは、針が非常に細いために、病変の組織構造を保ったまま検体を採取することができない点である。 組織診より診断の精度は落ちるが、患者への侵襲は比較的軽い。 細胞診は、乳腺腫瘍や、甲状腺腫瘍、子宮頸部腫瘍の診断や検診目的で行われることが多い。 細胞診と組織診を総称して、病理診断という。
さて、多くの病院では、細胞診の際、まず細胞検査士が検体を調べて、明らかに正常なものについては、そのまま正常と診断されるらしい。 細胞検査士が、異常、または異常の疑いがあると判断したもののみを病理医が調べ、正常か否かを判断するという。 ここで、医師法との兼ね合いが問題となる。
以前は、病理診断が医行為にあたるかどうかは、曖昧にされていた。 すなわち、医師でない者が病理診断を行って良いかどうかは、明確にされていなかったのである。 しかし平成元年に、厚生省により「病理学的所見に基づいて『診断する行為』は医行為にあたる」という趣旨の判断が示された。 これ以後は、病理診断は医師が行わなければならない、と考えられるようになったのである。 この理屈からいえば、「形態学的異常がない」という所見に基づいて「異常なし」という診断を行うことは、医行為にあたる。 従って、細胞検査士のみの判断により「正常である」と判断することは、医師法違反にあたる、ということになる。
一応、「細胞検査士は『形態学的異常を認めない』という所見のみを臨床医に報告しているのであって、『異常がない』という診断を伝えているわけではない。 あくまで臨床医が、細胞検査士の所見に基づいて『異常なし』と診断しているのである。」という弁明は、可能である。 しかし「形態学的異常がない」ことは「異常がない」ことと同義なのであるから、 「細胞検査士は所見を述べているだけであって、診断はしていない」という論理は、詭弁である。
私は、現状の細胞診のあり方が良くない、とは思わない。 熟練した細胞検査士は、少なくとも並の病理医よりは正確に細胞の性状を判断できるのだから、 明らかに正常なものを医師にみせずに「正常」と判断したからといって、それで誤診のリスクが生じるとは思われない。 私は、単に、制度の不備を問題にしているだけである。