これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2015/03/23 血液凝固に関する試験

先日、臨床検査医学の試験があった。 同級生の間で、なにやら「TAT が云々」というような会話がなされているのが耳に入って来たことがあるのだが、いったい TAT とは何のことかわからなかった。 何やら過去問を巡る話題のようだったので、イチイチ訊くのもどうかと思いその場では気にとめなかった。 後で気づいたのだが、これはどうやらトロンビン・アンチトロンビン複合体のことであったらしい。ずいぶんと、マニアックな話をしていたものである。

トロンビン・アンチトロンビン複合体を測定する目的は、トロンビンの産生量を知りたい、ということである。 トロンビンは、産生されるそばからアンチトロンビンと複合体を形成して不活化するため、この複合体の量から、トロンビン産生量を推定できる、という理屈である。 トロンビン産生量を知りたいと思うのは、血液凝固カスケードが活性化している、すなわち凝固亢進状態にあるかどうかを調べるためである。

ところで播種性血管内凝固 (Disseminated Intravascular Coagulation; DIC) において凝固系と線溶系のバランスを知りたい場合がある。 凝固系が優位であれば血栓症を来すし、線溶系が優位であれば出血傾向を来すからである。 この場合、両者のバランスが重要なのであって、たとえば健常人より凝固亢進状態であったとしても、 線溶系がそれ以上に亢進していれば出血傾向を来すであろう。 従って、DIC における凝固/線溶のバランスを調べる目的ならば、フィブリン分解産物であるフィブリノーゲン E 分画と D ダイマーの比を調べるのが有用である。 前者は、フィブリノーゲンやフィブリンが分解されることで生じる産物、すなわち線溶系亢進の程度を反映するものであり、 フィブリン分解産物 (Fibrin/fibrinogen degradation product; FDP) の一種である。 後者は、架橋された安定化フィブリンが分解されることで生じる産物であるから、凝固亢進の程度と、部分的に線溶系亢進の程度を反映するものである。 すなわち、E 分画の割に D ダイマーが多ければ凝固系優位であるし、E 分画が多いならば線溶系が優位であるといえる。 なお、トロンビン・アンチトロンビン複合体と D ダイマーの比を調べるのは、違うレベルのものを比較していることになるので、診断根拠としては精度が低くなる。

ところで、血液凝固に関する試験としては、トロンボテストとヘパプラスチンテストという、面白いものがある。 両者はいずれもプロトロンビン時間の測定と同じようなものであるが、用いる試薬が異なる。 教科書的には、前者は PIVKA (Protein Induced by Vitamin K Absense) による血液凝固阻害作用を受けるのに対し、後者は受けない、と書かれている。 すなわち、ビタミン K 欠乏症などにおいて、正常な凝固因子が産生されないことだけでなく、PIVKA の存在自体が凝固を阻害するというのである。 そこで、たとえば両者を測定することで、PIVKA による凝固阻害の程度を知ることができる、という、ワクワクするような試験がある。 これらの試験については、面白い話が豊富なので、後日あらためてレビューする。


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