これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2015/03/08 学士試験

ここ半年ほど医学から離れ、遊んでばかりいたのだが、近頃ようやく、医学の世界に戻りつつある。

少なくとも名大医学科の場合、単位認定試験を「学士試験」と呼んでいるようである。 俗には「卒業試験」あるいは略して「卒試」と呼ばれることもある。 臨床科目の学士試験は、例年、五年生の終わり頃から六年生の夏頃にかけて実施されるようであり、 今年は 3 月 13 日の臨床検査医学が先頭である。

詳しいことは知らないが、名大医学科では例年、インターネットを介して過去の試験問題や解答例が共有されているらしい。 科目によっては、試験問題の持ち帰りが禁止されているらしいのだが、そうしたものについては、 受験した学生が協力して、試験後に「再現問題」を作成し、下級生に伝えているという。 こうした行為には、二つの問題点がある。一つは学生としての倫理的な問題であり、もう一つは著作権問題である。

まず第一に、過去問をよく「勉強」することで試験を乗り切ろうという発想が、実に卑しい。 出題者側が事前に問題や過去問を公表している場合には微妙な問題が生じるが、 基本的には、学業の目的は試験対策ではないはずであって、正しく勉強していれば自ら試験には合格できるはずである。 もし正しく勉強しても合格できないならば、それは、たぶん、出題内容がおかしい。 出題者が試験問題の持ち帰りを禁止しているならば、それは、過去問に頼らなくても合格できるはずだ、 むしろ過去問に頼らなくても合格できる程度に勉強すべきだ、というメッセージであろう。 それなのに再現問題を作成して後輩に伝授することは、学業のあり方を歪め、信義に背く行為である。

第二に、再現問題の作成や、試験問題のインターネット等を通じた頒布は、著作権の侵害にあたる疑いがある。 再現問題の作成は、著作権法でいうところの「翻案」にあたり、同法第 27 条によって、著作者が専有する権利として定められている。 さらに、再現問題であろうと、持ち帰った試験問題であろうと、それをインターネット上で頒布する行為は、 同法でいう「公衆送信」にあたり、それを行うことも同法第 23 条によって、著作者が専有する権利とされている。 すなわち、著作者である出題者の許可なしに、これをインターネット等により頒布することは、違法である。

これらの理由により、私は、過去問や解答例の再現・共有には与しない所存である。 京都大学時代も含めて、私はこれまで、大学の試験で過去問に頼ったことはない。 ただし、このやり方で全ての試験を合格してきたわけではなく、三年生の「微生物学」の本試験では不合格となり再試験を受けた。 たぶん、臨床科目においても、少なからず再試験を受けることになるだろう。 それは一重に、私の不勉強ゆえである。


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