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2014/06/19 閉塞性動脈硬化症の心電図所見

非常に専門的でマニアックな話であるが、今週の私の頭の中は、この問題で一杯であるので、ぜひ、これを日記に書かないわけにはいかない。 動脈硬化とは、動脈壁が何らかの事情により肥厚し、内腔が狭窄する病態をいう。 動脈硬化は大動脈や大腿動脈などの大血管にも生じ、時に、これを閉塞せしめることがある。 結果として、その血管から血液を供給されている組織が虚血に陥り、痛みや痺れなどの症状を来すことがある。 これが閉塞性動脈硬化症であり、下肢の障害を来すことが多い。

さて、私が現在抱いている仮説は、次のようなものである。 「左下肢に閉塞性動脈硬化症を有する患者の標準十二誘導心電図をみると、四肢誘導では R 波には著変はみられずに P 波や T 波が減高することが多い。 この場合でも、電極を体幹に装着して四肢誘導に相当する心電図を得た場合には、P 波や T 波も正常である。 また、左下肢が正常で右下肢に閉塞性動脈硬化症を有する患者においては、こうした変化は認められない。」 この仮説は、専ら私の乏しい経験に基づくものであるから、信憑性は高くない。 しかし、次のような理論的考察から、左下肢の閉塞性動脈硬化症は心電図に有意な変化を来すと予想することができる。

しばしば、心電図は電圧計であると信じている人がいるが、実は心電計は電流計であってもよく、 それどころか、初期の心電計は電流計であった。 従って、心電図は、電極間に電流が流れてはじめて、記録され得るものである。 では、心臓より発する電流は、具体的に、どこを通って左下肢の電極に至るのか。 人体の大半は水であるとはいえ、骨は電流を通さないし、繊維性結合組織も高い電気抵抗を有している。 たぶん、心電図の源たる電流の少なからぬ部分は、脈管、すなわち血管やリンパ管の中を流れているのであろう。 従って、動脈の閉塞を来している患者においては、四肢の電流が低下し、心電図に有意な変化を来し得る、と考えるのは、自然なことである。

遺憾ながら私は、現時点において、閉塞性動脈硬化症が P 波および T 波の減高を来す可能性を指摘することはできても、 その具体的な機序について、充分に合理的な仮説を立てるにも至っていない。 たぶん、R 波の信号は主に静脈を伝わり、P 波や T 波は主に動脈を伝わっており、 それ故に閉塞性動脈硬化症は特に P 波と T 波を減高させるのだと思うのだが、いかがであろうか。


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