これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2014/06/25 カエサル

6 月 26 日の記事も参照されたい

私は、幸いにしてペアレンツという辛抱強いスポンサーから、潤沢な資金提供を受けている。 これほど恵まれた環境にいる学生は極めて稀であり、私は、このことに心から感謝している。 そのような立場にいる私が借金について書くと「お前は恵まれた環境にいるからわからないのだ」などと反感を買うであろう。 しかし、どうにも理解に苦しむので、書かずにはいられない。

医学科の学生は、たぶん、富裕な家庭に生まれた者が多いものと思われるが、中には学資に苦労している人もいる。 そこでアルバイトに精を出したり、法に抵触する手段で教科書を入手する者がいるらしい。 もちろん、ある種の社会経験のため、あるいは単に楽しいからという理由でアルバイトをするのは良いと思うのだが、 アルバイトのために勉強時間が削られ、「効率的な」勉強法に走るようなことがあっては、本末転倒であろう。 このように述べると、当然、「そうは言っても、金が必要なのだ」という反論が予想される。

ところで、奨学金という語は、英語では scholarship と訳されることが多いが、ふつう、scholarship には返済義務はない。 返済義務が課されるものは loan である。 従って、日本学生支援機構が学生ローンのことを「奨学金」と称し、 しかも scholarship と訳していることは、欺瞞であると言わざるを得ない。

私が何を言いたいかというと、「借りろ」ということである。 以前、ある同級生にこれを述べたところ、学生のうちにあまり大きな借金を作りたくない、とか、 あんたの考えは非常識だ、というようなことを言われた。 もちろん、常識的ではないということは、私もよく理解している。

かつて、ローマにユリウス・カエサルという男がいた。 彼は金と女にだらしがない人物で、不埒な女性関係を重ねた上に、若いうちから莫大な借金を作った。 その借金で何か一大事業をなしたというわけではなく、主に遊興費として使ったらしい。 彼は後に政界に進出したが、政治資金が枯渇するたびに、スポンサーに対して 「今までの借金を返してほしければ、もっと俺に投資しろ」と言わんばかりの意味不明な交渉を展開し、借金を重ねていったという。 彼こそが、ガリア、すなわち今でいうフランスを征服し、ルビコン河を越え、エジプト女王と親密になり、ローマ帝国の礎を築いた男である。

私が恐れるのは、借金を気にするあまり、心のゆとりが失われ、発想が貧弱になり、人生のスケールが小さくなってしまうのではないか、ということである。 借金を意識しすぎると、就職先の選び方が近視眼的になり、また国家試験不合格や留年を極度に恐れ、結果として勉強法が卑屈になり、 医師としての才能が縮こまってしまうのではないかと、懸念される。

だいたい、京都大学とか名古屋大学とかいう名門出であれば、よほど怠慢な学生でない限りは、将来、収入に困ることは考えられない。 ましてや、医学部であれば、高々 1000 万や 2000 万の借金で、何を心配することがあろうか。 若者であれば、カエサルぐらいの度胸と野望を抱くべきである。

2014/06/27 誤字修正

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