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医学科生の多くは、卒業して医師免許を取得すると、まず二年間の初期臨床研修を受ける。 これを修了しなければ、医師免許を要する業務に従事することができないからである。 多くの場合、初期臨床研修を受ける病院は、厚生労働省による医師臨床研修マッチング制度で決定される。 この場合、学生が予め希望する病院で試験等を受けた上で、学生と病院の双方の希望に沿うように研修病院が決定される。 制度上は、事前の病院見学などは必須ではないのだが、実際には事前に病院見学を行う学生が大半であり、これは世間一般の就職活動と同様である。 病院側にしてみても、会ったこともない学生を一回の面接だけで医師として採用するのは勇気のいることであるから、これは合理的である。
さて、私は現在五年生であるが、つい二日ほど前に、はじめて、病院見学の申し込みを行った。 そこで、本日の話題は研修病院選びである。 研修を行っている病院は、大学病院と、それ以外の市中病院に大別するのが一般的である。 噂では、大学病院は指導医の数が多く、高度に専門的な症例が多いのに対し、 市中病院は給与などの待遇が良く、common disease の症例が多く、そして primary care の修得に向くといわれている。
名大医学科の場合、卒業生の大半は市中病院、特に、いわゆる名大関連病院の市中病院で研修する。なぜだろうか。 多くの人が市中病院の利点として挙げる common disease とは、「よくある病気」というような意味であるが、具体的には何なのか、よくわからない。 たぶん、外傷だとか急性虫垂炎だとかを言っているのだろうが、そういった疾患は大学病院では比較的少ないから、 こうした症例を数多くみたいのであれば、確かに、市中病院で研修した方がよさそうである。 では、なぜ、高度に専門的な症例ではなく、外傷や感冒や急性虫垂炎などをたくさんみたいと考えるのだろうか。 なるべく早く開業したいと考えている、だとか、外傷専門の整形外科をやりたい、だとか、そういう理由があるのならば、 卒後早期に専門特化することに是非はあるにせよ、市中病院を選ぶことは理解できなくもない。 しかし多くの学生は、将来像をそこまで明確には描いていないにもかかわらず、市中病院を選ぶらしい。
実際のところは、給与等の待遇が良い、知り合いが多い、なんとなく良さそうだと感じる、 という程度の理由で病院を選んでいるのではないか。 それであれば、common disease だの primary care だのと、よくわからない言い訳をせずに、 「待遇が良いし、知り合いもいるし、評判も良いから」と正直に言えば良いと思う。 あまり重大な理由なしに病院を選ぶことに恥ずかしさがあるのかもしれないが、だいたい、皆、同じようなものであろう。
私だって、特別な根拠に基づいて研修先を選んでいるわけではない。 大学病院を選んだ理由も、「大学が好きだから」という程度のことでしかない。 候補に挙げている大学についても、「思い入れがあるから」「以前から漠然とした憧憬があるから」という程度の理由である。 我が愛する京都大学の附属病院を候補から外したのも、「京都大学では既に九年の歳月を過ごしたから」というだけのことである。 なお、とある友人にこれを言ったところ 「大学を好きだというのは嘘だろう。本当に大学が好きな人は、大学 (院) を辞めて予備校に通うような真似はしない。」 と言われてしまった。