これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2014/07/26 骨髄増殖性疾患

先日、『ハリソン内科学』を読んでいてホホゥと思ったので、記録しておく。 慢性骨髄増殖性疾患は、骨髄における腫瘍であり、一系統以上の、機能を有する成熟骨髄系細胞の産生が増加した病態である。 これに対し、急性白血病は機能のない血球が産生されるものであり、また骨髄異形成症候群は無効造血を特徴とする。 慢性骨髄増殖性疾患は、具体的には、慢性骨髄性白血病, 真性多血症, 本態性血小板増加症, 原発性骨髄繊維症, などである。 このうち後三者においては高頻度で JAK2 の V617F 変異がみられるため、何らかの関連があると考えられている。 念のために補足すれば、JAK2 は JAK-STAT 系の JAK の一つであり、細胞増殖因子受容体の下流シグナルを担う。 また、V617F とは、617 番目のアミノ酸が V (バリン) から F (フェニルアラニン) に変化する変異、という意味である。

さて、『ハリソン内科学』第 4 版 108 章によれば、真性多血症の自然経過において骨髄繊維症を来すことがあるが、 これは反応性で可逆的な過程であり、これのみでは造血を妨げることもなく、予後に関係しない (p.786) という。 これに対し『ハーバード大学テキスト 血液疾患の病態生理』第 20 章では、真性多血症が骨髄繊維症に移行すると、 高度の貧血と脾腫を来し、治療は極めてむずかしくなる (p.194) という。

次に、「ハリソン」では、原発性血小板増加症について、血症板数の増加が 血流の停滞や血栓症を引き起こすという証拠はなく、無症候性であれば治療の必要はないとしている。 また、後天性 von Willebrand 病を来すことがあり、その場合には抗血小板薬は出血を促進する可能性があるという。 これに対し「ハーバード大学テキスト」では、治療の基本原則は血栓症の合併を防ぐことであるため、 すべての患者は抗血小板療法を受けるべきであるとしている。

このように、両者は相反する主張をしており、真相は、よくわからぬ。 なお、「ハリソン」のこの章の著者は Johns Hopkins University School of Medicine の Professor J. L. Spivak であり、 「ハーバード」は Harvard Medical School の Professor H. F. Bunn と Professor J. C. Aster の共著である。


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