これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2014/08/05 言葉遣いを巡る思い出

今ではどうだか知らないが、私が在籍していた頃の京都大学工学部物理工学科原子核工学サブコースでは、四年生が卒業論文の内容をポスター発表する催しがあった。 私は、量子力学を否定する beable の理論のレビューと、二重スリットの実験について beable の理論に基づく電子の軌跡のシミュレーションを行った。

ポスター発表会には、教員だけでなく大学院生も訪れ、様々な質問や議論が行われた。 当時、修士課程一年生であった某氏は、私のポスターをじっと眺めた後に、文章の一部を指して 「ここに『自己矛盾が生じる』と書いてありますが、これは、どういう意味ですか?」と問うた。 質問の意図がよくわからずに私が戸惑うのをみて、彼は、続けた。 「これは、単に『矛盾する』という意味ですか?」

要するに彼は、私が深く考えもせずに「自己矛盾」という冗長な表現を用いたことを咎めたのである。 特に文学的に深淵な意味があるならともかく、同じ意味であるなら、「自己矛盾」ではなく単に「矛盾」とするのが、学術的な文章としては適切である。

この一件以来、なるべく言葉遣いに気をつけるようにしている。 学生時代に、彼のような的確な指摘のできる人物と出会えたことは、私にとって幸運であった。


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