これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2015/09/25 お忙しいところ恐縮です

以前、おつかれさまという言葉について書いた。 それに類する挨拶として、電話口などで用いられる「お忙しいところ恐縮です」というような言葉がある。

たとえば学生が、ずっと目上の相手、たとえば教授なり病院の院長なりに対して電話する際に、 「たいへんお忙しいでしょうに、その中から貴重なお時間を頂戴いたしまして、まことに恐縮でございますが……」というような気持ちで使う挨拶である。 が、よくよく考えれば、「余計な配慮をすること自体が非礼」という意味で、これも「おつかれさま」に類する失礼な挨拶なのではないか。

たとえば相手が教授の場合であれば、学生を指導し、教育することは、教授にとって重要な職務である。 さらに、教授ともなれば優秀な人物なのだから、忙しい中でも適切にやりくりして、教育という重要な任務のための時間を割くことなど、朝飯前のはずである。 それを、忙しいだの、時間のやりくりが大変だのと、目下の者が配慮すること自体が、おこがましい。 緩衝目的で一語を挟むのであれば、短く「おそれいります」ぐらいの表現に留めるのが適切なのではないか。「お忙しいところ」は余計である。

逆の立場で考えると、わかりやすい。 たとえば、我々医学科六年生は、卒業のための試験が目前に迫っており、医師国家試験もあと四ヶ月程度のところに来ている。 人によっては「イカン、間に合わぬ」などと、アタフタしているかもしれない。 そこに、知り合いの下級生が何か頼み事にやって来たとしよう。 部活動関係の何かでも良いし、学業についてわからぬ点を質問に来たのでも良い。 その時に「試験前でお忙しいところ恐縮です」という挨拶が適切かどうか、という問題である。

キチンと学生らしい生活を送ってきた者ならば、試験前だからといって、さほど慌てる必要はない。 また、仮に内心ではアタフタしていても、下級生のちょっとした依頼のために時間を捻出することなど、造作もないことである。 それなのに「試験前で忙しいでしょう」などと言うのは、暗に「アンタ、ろくに勉強していないから、今頃、慌てているんだろう」と言っているようなものである。

もちろん、そういう悪意によって「忙しいでしょう」などと言う者はいないだろうが、理屈としては、そうなってしまう、という話である。 余計な気は遣わずに「すいません」「ありがとうございます」「失礼します」などの短い言葉で済ませれば良いと思われる。


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