これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。
形成外科の一分野に、美容外科、というものがある。世間では「美容整形」などと呼ばれるが、整形外科ではなく形成外科の範疇である。 美容外科が、形成外科の他の分野と一線を画する点は、病的でない状態からの整容を目指して治療を行う、という点にある。
ここで問題になるのが、美容外科の適法性である。 人体をメスなどで傷つける行為は、基本的には刑法第 204 条の規定する傷害罪にあたる。 南江堂『NEW 法医学・医事法』によれば、医師の行為が罪に問われないのは、同法第 35 条のいう「正当行為」に該当する場合に限られる。 「正当行為」と認められるためには 1) 適正な治療目的; 2) 適正な手段; 3) 患者の承諾、の全てを満足する必要がある、と考えられている。 重要なのは、「患者の承諾さえあれば何をやっても良い」というわけではない、という点である。
美容外科については、主として「適正な治療目的」が問題になる。 容姿や容貌について著しい劣等感を持っているために社会生活に支障を来している、というような患者に対し、 それを治療する目的で外科的に介入することは、個々人の価値観に由来する好みの問題はあるにせよ、法的には正当であろう。 しかし、俳優として仕事を得るため、だとか、水商売等で客の目を引くため、とかいう目的で手術を行うのは、どうであろうか。
まじめな美容外科医は、そうした「治療目的ではない」美容外科的介入は拒否しているらしい。 しかし、巷にあふれる、いわゆる美容整形クリニックの中には、顧客が求めさえすれば、治療とはいえない症例に対しても施術している例があるのではないか。
治療以外の目的であったとしても、適正な業務として行われているならば、刑法第 35 条の規定により、罪には問われない。 しかし、それは医療ではないのだから、医師免許は必要ないはずである。 いわゆる美容整形業務を医師が独占し、莫大な利潤を得ている現状には、何らの正当性もない。
ここに明言しておくが、私は、治療ではない美容外科的介入を行う者を医師とは認めないし、心より軽蔑する。