これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2015/08/13 「診断のために有用な検査」

Jamilah 氏のプロジェクトを手伝っている関係で、第 108 回医師国家試験の問題を少しずつ閲覧している。 そこで、一昨日の記事で言及した件について気づいたことがある。

第 108 回医師国家試験 D 問題 25 は、かいつまんで紹介すると次のような問題である。 「42 歳男性が 4 ヶ月前から続く微熱および 3 週間前から続く全身倦怠感および手足の関節痛を主訴に来院した。 一週間前に数秒間の眼前暗黒感を生じた。4 ヶ月で体重は 5 kg 減少した。 心尖部に体位によって強さが変化する心雑音を聴取する。 その他の身体診察所見や検査所見に異常はなく、リウマトイド因子や抗核抗体も検出されず、補体価にも異常は認められなかった。 診断のために有用な検査はどれか

国家試験的な「論理」としては「体位によって強さが変化する心雑音」から「粘液腫」であって、心エコーが「診断のために有用な検査」だというのであろう。 もちろん、この身体診察所見だけで粘液腫と診断するのは無理がある。 ひょっとすると、実は白血病の類であって、骨髄穿刺が診断に有用なのかもしれない。 なにしろ、この設問では末梢血の検鏡所見が記載されていないので、実は白血球に異型があるかもしれない。

何が言いたいのかというと、これだけの情報では、何が「診断のために有用」であるかは判定できないのである。 出題するなら「次に行うべき検査はどれか」とするべきである。

さらに進んで推測すると、たぶん、これは医師国家試験の、くだらない「お約束」なのであろう。 「体位によって変化する心雑音は粘液腫であって、心エコーが診断に有用である」という取り決めがあるものと思われる。 もちろん、これは医学ではない。 同様に、一昨日の件でいえば、(尿路感染症などによる) 間質性腎炎においては NAG の測定が診断に有用である、という、医学ではない取り決めがあるものと推定される。

彼らは、こうした「取り決め」を必死に暗記しているのである。 世間には「医学部は勉強が大変だ」などという風評があるようだが、その実体は、このようなものである。


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