これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。
しばらく、医学の専門的な話が続く。 ある友人にみせてもらった書籍に、次のような設問が掲載されていた。
この設問に対して、自信を持って「○」または「×」と答えた人は、不勉強である。
まず「間質性腎炎」という術語であるが、これは医学書院『医学大辞典』第 2 版によれば「炎症の主座が腎尿細管・間質にある腎炎」のことである。 すなわち「糸球体腎炎ではない腎炎」という意味である。 炎症が尿細管に限局して間質に波及していない場合も間質性腎炎と呼ぶのか、という疑問もあるが、そういう例は稀なので、ここでは議論しない。
N-アセチル-β-D-グルコサミニダーゼ (NAG) は、リソソーム酵素の一つである。 臨床検査医学においては、しばしば尿中 NAG 活性が測定され、これは主に尿細管上皮の逸脱酵素である。 従って、いわゆる間質性腎炎で尿細管細胞傷害を来した場合には、典型的には尿中 NAG 活性は高値になる。
しかし臨床検査医学的には、尿中 NAG 活性高値と間質性腎炎を単純に結びつけることはできない。 たとえば微少変化型ネフローゼ症候群の場合、尿細管細胞傷害は乏しいが、腎臓以外の細胞から排泄された NAG が糸球体で瀘過されるため、尿中 NAG 活性は高値になる。 また慢性間質性腎炎で尿細管が高度の障害を来している場合にも、肝硬変の際に血中肝逸脱酵素活性が低下するのと同じ理屈で、尿中 NAG は低値となり得る。
すなわち「尿中 NAG 活性低値は急性尿細管傷害を否定する根拠になる」というのは正しいが、それ以上のことは、この検査単独ではいえない。 それをふまえると、「尿中 NAG の測定は間質性腎炎の診断に有用である」という表現は曖昧であり、正誤の判断が難しい。
次に「67Ga シンチ」であるが、そのような検査は存在しない。 そもそも「シンチ」というのは俗称であって、正しくは「シンチグラフィ」という。 臨床的に67Ga が使われているのは現状では67Ga-クエン酸 シンチグラフィだけであるから、 「67Ga シンチ」とは、これのことを言っているのだろう。 しかし核医学検査においては「どの核種を用いるか」も重要であるが、「どの薬剤を標識しているか」も同様に重要なのであって、「クエン酸」の部分を省略してはならない。
さて、67Ga-クエン酸の集積機序は不明であるが、 基本的には、Positron Emission Tomography (PET) で用いるフルオロデオキシグルコース (FDG) と同様の集積パターンを示すらしい。 従って、歴史的に悪性腫瘍の検索目的で使用されてきたが、近年では FDG-PET の普及に伴って、実施されなくなってきている。 金原出版『核医学ノート』第 5 版によれば、投与直後には Ga-クエン酸は腎から排泄されるが、撮像を行う頃には肝排泄が主であり、腎臓はほとんど描出されないという。
もちろん侵襲性が強く時間のかかる検査であるから、腎炎を疑っている場合に、その診断目的で施行するべきではない。 しかし Ga-クエン酸は炎症部位にも集積するのだから、状況によっては、間質性腎炎の診断の助けにはなる。