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2015/07/14 売血と学生運動

佐久友朗『売血 若き 12 人の医学生たちはなぜ闘ったのか』という書籍を読んだ。 既に絶版であるらしいが、名古屋大学医学部附属図書館には所蔵されている。

同書は、まさに標題の通りの内容である。昭和 40 年頃、まだ輸血製剤のほとんどが売血に依っていた時代に、 東邦大学の医学部生であった著者らが、血液銀行らの不正を暴き、世に問題提起をした活動の記録である。 著者は昭和 42 年卒業であり、いわゆる青医連としてインターン制度に抵抗し、医師国家試験の受験を放棄した世代であるらしい。

最近の若い学生の中には、日本の現代医療史を知らぬ者も多いであろうから、簡潔に説明する。 現在では血液製剤は全て献血によりまかなわれているが、かつては売血が中心であった。 すなわち、ドナーは、営利企業である「血液銀行」で採血され、代価として金銭を受け取る。 一見、合理的であるが、金銭目的で頻回に売血する者が続出した。 そうした者の中には肝炎などのウイルスのキャリアが多かったために、輸血後には高頻度で肝炎を来したのである。 また、ドナーが貧血であっても血液銀行は構わず血液を買い上げた。 これらの行為に対する政府の規制は、事実上、存在しなかった。 詳細は、同書を読まれたい。

さて、著者は後に青医連活動に加わったらしいが、それより少し後になって、いわゆる東大安田講堂の立て籠もり事件があった。 こちらも、当事者らが詳細な文献を多く遺しているから、私が拙く説明することは避ける。 この事件では、講堂内の壁に「連帯を求めて孤立を恐れず 力及ばずして倒れることを辞さないが 力を尽くさずして挫けることを拒否する」という スローガンが残されていたことが有名である。 私は高校時代、同級生の黒川君という人物から、このスローガンのことを教えられ、いたく感心したことを覚えている。

学生運動には、賛否があるだろう。社会の不正を匡すための方法として、あのような手段が適切であったのかどうかは、わからない。 ただ、当時の学生達は、それぞれがよく考え、その信じる所に従って行動したことは確かであり、その点には敬意を払うべきである。

現在でも、京都大学など一部の大学においては、全学連などを称して「学生運動」に勤しむ者は多い。 しかし、彼らの中には、あまり深く物事を考えず、なんとなくカッコイイから、と運動に参加しただけの者が少なくないように思われる。 いわば「ファッション活動家」である。 また、社会・政治に無関心で、自分の将来と自分の社会的・経済的利得ばかりを考える、かつて「ノンポリ」と呼ばれた人種が圧倒的に多くなっている。

こうした時代にあって、我々は、医学・医療の未来を建て直すためにどう行動するか、よくよく考え、実施する必要がある。


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