これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2015/07/10 皮膚炎と蕁麻疹

一部には異論があるようだが、「湿疹」という語は「皮膚炎」と同義であるとされることが多い。 同義であるならば、用語として一方に統一するべきだと思うので、私は、基本的に「皮膚炎」という表現のみを用いることにしている。 「湿疹」という語は、どうも意味がはっきりせず、いい加減な使い方をされる例が多いように思われ、好きではない。 話の流れにより「湿疹」という表現を用いる場合には、私は基本的に「いわゆる湿疹」と言うことにしている。

実は「皮膚炎」という表現も病理学的には正しくない。 皮膚科学において「皮膚炎」と呼ばれる病態は、表皮の海綿状態、すなわち有棘細胞層に炎症による細胞外浮腫がみられる状態をいう。 「皮膚」は「表皮」と「真皮」から成るが、真皮の炎症は「皮膚炎」とは呼ばれない。 従って、いわゆる「皮膚炎」は、正しくは「表皮炎」とでも呼ぶべきものなのである。 なお、「真皮の炎症」を意味する医学用語は存在しない。

清水宏『あたらしい皮膚科学』第 2 版によれば、膨疹とは「皮膚の限局性浮腫で、短時間で消失する皮疹」をいう。 掻痒を伴うことが多いが、必須ではない。通常は真皮上層の浮腫である。 定義からわかるように、「膨疹」とは皮疹の名称であって、所見あるいは症状であり、疾患名ではない。 これに対し「蕁麻疹」は診断名であり、掻痒を伴う一過性、限局性の紅斑や膨疹を来すものをいう。定義からわかるように、これは、単一疾患ではなく、疾患群である。 蕁麻疹の原因は多様である。機械的な刺激、寒冷、温熱、日光曝露などが原因となり得る。

さて、皮膚科医の中には、蕁麻疹の患者に対して「機械的な刺激、寒冷や温熱、日光曝露を避けよ」と指導する者がいる。 これは、はたして、適切だろうか。 その患者が、温熱刺激によって生じる型の蕁麻疹を有しているならば、温熱を避けることは合理的である。 しかし、その患者が過去に温熱で蕁麻疹を来したことはないならば、たとえば熱い風呂を避けるべき理由はない。 この場合、「温熱を避けよ」というのは、いたずらに QOL を下げる指導である。

つまり「機械的な刺激、寒冷、温熱、日光曝露は蕁麻疹の誘引となる。従って、蕁麻疹患者はこれらの刺激を避けた方が良い。」という理屈は、 一見もっともらしいが、実は論理が通っていない。 こうしたエセ論理は、医学の世界には、かなり多い。注意して勉強する必要がある。


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