これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2015/07/09 肚に力を込めて

臨床実習の一環として、大学病院以外の病院や医院でお世話になったことがある。 しばしば、雑談として、将来の進路の予定などについて話すことがある。 私の場合、研究寄りの病理医になる予定であり、初期臨床研修は大学病院で受け、その後も大学病院に勤めるつもりである、と述べていた。 この点について、私を知っている人からは、いささかのご指摘もあるだろうが、今回は、その話は、しない。

ある医師は、その進路の話の流れで「すると、将来的には教授になろうというわけだね?」と言った。 私は、一瞬、言葉に詰まったが、すぐに肚に力を込めて「そのつもりです」と答えた。 すると、その医師はニヤリとして「そうでなければならない」などと述べた。 さらに、患者に対し私を紹介する際に、半ば冗談めかして「未来の教授だよ」などと言った。

日本的な謙遜の美学からすれば、ここは「いえ、教授などとは、とんでもない」とでも言うのが筋であったかもしれない。 しかし我々は、名古屋大学医学部である。医学の明日を開拓するという使命を帯びているのだ。 我々がやらねば他にやる人はいない、という事実を、我々は忘れてはならない。 「もっと他にふさわしい人がいます」などと謙遜することは簡単であるが、それは同時に、明日を創るという重荷を他人に転嫁し、安楽な道を選ぶということでもある。 無責任である。

とはいえ、「教授になります」などと公言し、患者に対し「未来の教授」などと紹介されるのは、あまり心地良いものではない。 背筋がゾッとし、実に、落ち着かない。 だから、私は「そのつもりです」と答える際に、ハラに力を込める必要があった。平然と、普通の会話で言えるものではない。


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