これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2015/07/06 教科書レビュー: 中山書店『あたらしい皮膚科学』 第 2 版

通読していない状態での仮レビューである。 先週末に集中して読むつもりであったのだが、感冒様の症状で寝込んでいたため、まだ 3 分の 1 程度しか読み終わっていない。

本書は北海道大学の清水宏氏の単著であり、全体を通したストーリー性のある名著である。 図や写真が豊富であり、特に組織写真が充実している。 記載は初学者を念頭においているようであり、たとえば神経鞘腫の組織像には Antoni A 領域、Antoni B 領域、verocay body といった 特徴的な領域が重ねて図示されており、たいへん、よろしい。 また、25 ページには、エクリン汗腺の導管について、驚嘆すべき見事な組織写真が掲載されている。

その一方で、基礎医学的な部分については、いささか疑問を感じる箇所もある。 たとえば「免疫反応の基礎」という節では、いわゆるパターン認識受容体についての記載がなく、マクロファージの働きについて、 いささか古い記述が用いられているように思われる。

また、グルココルチコイド製剤の分類について「作用の強さに従って (中略) 5 段階に分類されている」と述べられているが、 「作用の強さ」という言葉は曖昧で、よろしくない。 このように、あくまで臨床的な「皮膚科診療」を解説した書物という色彩が強く、学問としての「皮膚科学」には、あまり言及されていない。 ただし、これは同書の問題というよりは、そもそも皮膚科領域の問題かもしれない。 というのも、皮膚疾患には原因や機序が不明なものが多く、学問的な、系統的解説は容易ではないからである。

全体としては、豊富な図表を用いて明快に皮膚科疾患や症候群を概説しており、初学者が通読するための教科書として強く推奨する。


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