これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2015/12/15 表皮嚢胞か感染症か

私自身の話である。4, 5 日前から、よくわからない急性皮膚病を患っている。 もともと、私の右下顎には母斑細胞母斑があるのだが、その部位が発赤、腫脹してきたのである。 母斑自体は、少なくとも 20 年ほど前からあるものなので、悪性黒色腫とか有棘細胞癌とかいうことは、たぶん、ない。

急性の変化であること、表皮には明らかな異常がないこと、5 mm から 10 mm 程度の小結節であることから、私は、表皮嚢胞の破裂であろう、と自己診断した。 表皮嚢胞というのは、何らかの事情で表皮が真皮に陥入し、角化層を内向きにした嚢胞を形成するものであって、中には角化物を溜める。 平たくいえば、表皮の表裏がひっくり返って、本来の表面を内側にした袋状になっているものであり、その袋の内容物は垢のようなものである。 これが破裂すると炎症を来したり、異物肉芽腫を形成したりする。 私は、外科的摘出が必要になるだろう、などと思いつつ、以前から通院している皮膚科開業医を受診した。 なお、昨晩までは発赤を伴う小結節のみであったのだが、本日朝になると、化膿がみられた。感染が合併した可能性もある。

その医師は、視診し、簡単な問診で圧痛があることを確認し、「黴菌が入ったのだ」と診断した。 え、本当かよ、と思いつつ、処方された薬を受けとり、私は帰途についた。 医師の指示によれば、病変が自壊したら排膿せよ、とのことである。 なお、処方内容はアミノグリコシド系抗菌薬であるゲンタマイシン軟膏、ニューキノロン系抗菌薬であるレボフロキサシン錠、 いわゆる粘膜保護薬であるレバミピド錠である。 ニューキノロンに胃薬を併用するのが一般的であるかどうかは、知らぬ。 感染であるならたぶん StaphylococcusStreptococcus あたりであろうが、なぜセフェムではなくニューキノロンなのかも、わからぬ。 添付文書の指示に反して 感受性検査なしにニューキノロンを使うのが一般的なのかどうかも、知らぬ。 腎臓病などの既往歴は確認されていないし、副作用に関する説明もない院内処方であったが、これで事故が起こらないのかどうかも、存ぜぬ。 なお、この医院では、継続通院している患者に対し、医師が対面しての診察を省略して「薬だけ出す」ということも行っているようだが、 これが医師法違反にあたらないのかどうかは、言及しないことにしよう。

さて、鶴舞に帰った私は、いささか迷ったが、医師の指示に反して「用手的に」皮膚を切開し、 排膿した。 鏡を使ってよく観察すると、化膿していたのは小結節の辺縁のみであって、病変の中心部には明らかな膿瘍はみられない。 今後どうなるのか、慎重な経過観察を要する。

皮膚感染症といえば、以前、大学院時代に、右であったか左であったか忘れたが、足背の感染症を患ったことがある。 夜から急に痛みだし、朝になってから近くの整形外科を受診した。 その医師は、ここから入った黴菌が全身にまわって、敗血症になって死ぬこともあるのだ、などと私を脅した。 看護師は「先生、脅かしすぎ」などと笑っていたが、医師は、あくまでまじめに「黴菌は怖いのだぞ」と言っていた。 今から思えば、あの医師の発言は、完全に正しい。 ちょっとした傷から壊死性筋膜炎を来し、敗血症の診断が遅れて救命できない、という事例は、遺憾ながら、現代の日本においてそれほど珍しくはない。 それ故に、日本集中治療医学会の日本版敗血症診療ガイドラインでは、 敗血症の診断基準をかなり緩く設定し、敗血症と「誤診」する可能性を高めてでも、早期診断することが重要であるとしている。


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