これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2015/12/13 アミロイドーシス

アミロイドーシスと呼ばれる疾患群がある。これは、アミロイドと呼ばれる異常な蛋白質が様々な臓器に沈着することで機能障害を来すものである。 しかし「アミロイド」とは何か、ということをキチンと説明できる学生は稀であろう。

アミロイドの正体は、いまひとつ定かではないのだが、蛋白質が異常な三次元構造をとって細胞外に蓄積したものであるらしい。 元の姿は様々であり、免疫グロブリン軽鎖であるとか、ミクログロブリンであるとか、 `Robbins and Cotran Pathologic Basis of Disease 9th Ed.' によれば 23 種類が知られているという。 これらの異常な構造を持つ蛋白質が、どういうわけか「アミロイド P」と呼ばれる蛋白質と結合して繊維状になり、専ら細胞外に沈着するらしいのである。

`Robbins' は、通常ならばプロテアソームで処理されるはずの異常蛋白質が処理能を超えて蓄積する、という機序を述べているが、 たぶん、これは単なる誘引であって、疾患の最も本質的な部分ではあるまい。 蛋白質は、しばしば folding に失敗する。 `Molecular Biology of the CELL 6th Ed.' によれば、中には 80 % もの高率で misfolding する蛋白質もあるらしい。 従って、プロテアソームの処理能を超えた、というだけのことであるならば、もっと雑多な蛋白質が沈着するはずである。 さらにいえば、アミロイドが専ら細胞外に蓄積することや、コンゴレッドで染色できるような繊維構造を共通して持っていることも説明できない。 何か極めて重要なこと、たぶんアミロイド P の働きに関係するような何かを、我々は、未だ知らないのである。

アミロイド P といえば、`Robbins' には興味深い検査のことが書かれている。 この蛋白質には、既に沈着しているアミロイドに対しても結合する、という性質があるらしい。 そこで、アミロイド P を放射性同位元素で標識して静脈内投与することで、アミロイドを描出するシンチグラフィが可能である、という。 もっとも、こうした検査は金原出版『核医学ノート』第 5 版などの教科書にも記載されていない。 たぶん、現状ではアミロイドの沈着を検出したところで有効な治療法が存在しないので、費用がかかる割に、検査することの臨床的意義が乏しい、と考えられているのだろう。

たとえば甲状腺髄様癌は、カルシトニン産生細胞、いわゆる C 細胞が癌化するものであるが、しばしばカルシトニン由来のアミロイドが局所的に沈着する。 このアミロイド形成、沈着の過程が詳らかになれば、神秘のヴェールに包まれたアミロイドーシスの本質に対する理解は、大きく前進するであろう。


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