これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。
医師や医学科生に対して「なぜ、医者になろうと思ったのですか?」と安易に質問するのは、避けた方が良い。 なぜならば、十中八九、「親や教師に勧められたから」「高校時代に成績が良かったから」「なんとなく」「親が医者だから」などと、ろくな理由がないからである。 医者の中には、「親が医者だから」というのが立派な理由だと思っている者がいるようだが、意味がわからない。 このあたりは過去に何度か書いたし、今さら、繰り返して批判することは避ける。
中には「子供の頃に祖父が癌で亡くなって云々」などという者もいるらしいが、よく考えると、これは理由になっていない。 祖父が孫より早く死ぬのはあたりまえであるし、日本人の 3 人に 1 人は癌で死ぬのである。 祖父の癌が理由になるなら、日本人はほとんど全員、医者になってしまう。
私は、ろくでもない理由で医学科に入ること自体は、やむを得ないと思う。 18 歳の若者に、キチンとした理由で進路を選べ、と要求する方が無茶なのである。 問題は、大学に入ってからである。 「考える」ということを軽視し、ひたすら覚えることばかりを要求する教育が、少なくとも名大医学科では、なされている。
同級生の話を聞く限りでは、これは高校までの教育の問題であるように思われる。 とにかく覚えるのが試験に合格するための近道であるし、試験の点数、偏差値で頭の良し悪しは評価されるのである。 しかも、その試験の点数争いも、首都圏に比べると地方はヌルい。 そうした環境で育って、18 歳になって初めて学問に触れるのだから、遅すぎる。
入学した後、三年生以下ぐらいの頃には「早く臨床のことを学びたい」などと言う者が少なくない。 基礎、基本を学ばずに、臨床のことがわかるはずはないのだが、そんなことは考えないようである。 また、基礎科学、基礎医学にも、感動すべき点、興奮すべき点はいくらでもあるのに、そうしたものは目に入らぬようである。
四年生になると、「早く臨床実習をやりたい」と言い始める。 医学を全く修めていない者が、病院に行って何を勉強するのかよくわからないのだが、とにかく、もう机上の勉強は嫌なのである。 病院での実習はきっと楽しいに違いない、とにかくやれば身につく、と思っているのだろう。
そして臨床実習が始まって半年ほど経つと、だいたい、飽きてくる。 もう実習はいい、国家試験対策の勉強をする時間が欲しい、などと言い始める。 まだ見てはいないが、たぶん、医者になって三、四年もすれば、彼らは「早く開業したい」と言い始めるに違いない。
いったい、どこで道を間違えたのだろうか。 大学入試と、一年次のカリキュラムの罪が重いように思われる。