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2015/12/10 神秘主義

「オーソモレキュラー」を称する勢力がいる。 Orthomolecular medicine というのは、もともと精神疾患、特に統合失調症に対するビタミン大量投与療法を支持する勢力から発展したものである。 あまり明確な定義をしている学術文献がみあたらないのだが、適切な栄養摂取の重要性を説く目的で 20 世紀後半に作られた用語であるらしい。

現在の精神医学は、基本的に「明確な器質的異常によらない異常」を扱っている。 しかし、精神の異常は根本的には脳の異常であると考えられるから、よくよく調べれば、どこかに器質的異常が存在するはずである。 具体的に何がどうおかしいのかは、現時点では明らかにされていないが、ビタミンあるいはそれに類する何らかの栄養欠乏が原因となって 統合失調症などを来している可能性はあるから、Orthomolecular medicine の人々の主張は、荒唐無稽とはいえない。 ただし、ビタミン欠乏と精神障害との関連を説明する理論も、明確な統計的根拠も欠いているから、合理的であるともいえない。

日本においてオーソモレキュラーを称する医師の中には、この本来の Orthomolecular medicine を独自に改変した、独自の「医療」を実施している者がいる。 何やら詳細な血液検査に基づいて、どんな栄養が欠乏しているのかを明らかにし、不足しているものを補う、というようなものであるらしい。 もちろん、保険の効かない自由診療であるから、なかなか高額な費用がかかるらしい。 この「高額」というのがポイントであって、無知な患者は「こんなにお金をかけているのだから、効くに違いない」という心理が働き、 プラセボ効果により体調は良くなると思われる。

彼らが、どのように血液検査所見を解釈しているのかは、知らない。それらしい内容を説明した文献も、みあたらない。 臨床検査医学の立場からいえば、血液検査で、細かな栄養バランスを見抜くことは、まず不可能であるように思われる。 たぶん、彼らは何か画期的な新技術を開発し、それを非公開のまま使用しているのであろう。

以前、漢方医学が不適切に神秘的な扱いを受けている件について書いた。 現在の医学ではどうにもならぬ、ということになった患者は、時に、藁にもすがる思いで、こうした漢方医学やオーソモレキュラーに頼る。 患者に対する心理的、社会的ケアが不足している証拠である。 それだけでなく、自由診療の名の下に、そうした患者を医師が食い物にしているのだから、恐ろしい話である。

2015.12.11 語句修正

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