これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2015/12/07 障害者福祉

同級生の某君と法令上の障害者について話していて、よくわからなかったので、ここにまとめておく。 なお、具体的な法令の条文については、政府の公式サービスであるe-Govで検索するのが良い。

日本国における障害者福祉の基本理念は、障害者基本法で定められている。 基本法というのは、国としての基本的な方針を定める法律であって、諸々の具体的な制度は、この基本法の理念に沿う形で定められる。 形式的には単なる法律であるから、これを改正する際には国会における通常の手続きのみでよく、国民投票などは行われない。 この法律の第二条では、障害者とは「身体障害、知的障害、精神障害その他の心身の機能の障害がある者であつて、障害及び社会的障壁により 継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態にあるもの」とされている。 なお、社会的障壁とは「障害がある者にとつて日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような 社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のもの」である。

これは、あくまで医学日記であって、法学日記ではないから法律の詳細に言及することは避けるが、その理念を簡潔にみておくことには意義があるだろう。 まず第一条 (目的) は

この法律は、全ての国民が、障害の有無にかかわらず、等しく基本的人権を享有するかけがえのない個人として尊重されるものであるとの理念にのつとり、 (中略) 相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会を実現するため、 (中略) 障害者の自立及び社会参加の支援等のための施策を総合的かつ計画的に推進することを目的とする。

というものである。そして第四条 (差別の禁止) は

何人も、障害者に対して、障害を理由として、差別することその他の権利利益を侵害する行為をしてはならない。
2 社会的障壁の除去は、それを必要としている障害者が現に存し、かつ、その実施に伴う負担が過重でないときは、 それを怠ることによつて前項の規定に違反することとならないよう、その実施について必要かつ合理的な配慮がされなければならない。

である。社会的障壁を除去に努めることが、義務として定められていることに注意を要する。

さて、障害者支援の具体的内容を定めた法律は、歴史的な変遷があるものの、現在では障害者総合支援法が中心となっている。 身体障害者の場合、支援の内容は、便宜上、障害の程度によって定められる「等級」によって、ある程度、決まる。 これは、身体障害者福祉法施行規則で定められているものであって、基本的には医師による診断書と意見書によって判定される。 等級表は厚生労働省のウェブサイトで閲覧できる。 この等級表の内容が適切かどうか、という点にも議論はあるが、今回は、そのあたりへの言及は避けよう。 注意すべき点は、表中には疾患名は登場せず、あくまで「どのような機能障害があるか」という観点だけで等級は定まる、という点である。

さて、冒頭の某君との間で話題になったのは、心疾患についてである。 等級表では、心疾患による障害で最も軽いのは 4 級であり「心臓の機能の障害により社会での日常生活活動が著しく制限されるもの」となっている。 つまり、仮に心疾患があったとしても、日常生活活動に何ら影響がない程度であれば、法令上の障害者としては扱われない。 ただし、このあたりは客観的基準がないから、医師の「意見書」の加減で、何とでもなるといえば、何とでもなる。 従って、医師は高い倫理観を持ち、障害者支援の不正受給を防ぐ一方で、本当に支援を必要とする障害者には円滑な支援が行われるよう、適切な意見書を書かねばならぬ。


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