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ある人に問われて、明確に答えることができなかったので、喘息と急性細気管支炎の違いについてまとめる。
急性細気管支炎という語は、細気管支に急性炎症が起こっている、という状態を表す語であって、疾患名ではない。 細気管支とは、気管支が分岐して細くなったものであり、軟骨を欠く部である。だいたい、径は 1 mm 以下である。 急性細気管支炎の原因はウイルス感染であることが多く、`Nelson Textbook of Pediatrics 20th Ed.' によれば、特に RS ウイルスが多いという。 念のために確認すると、RS ウイルス感染症は乳幼児では非常にありふれた疾患であり、大抵、再感染を繰り返すことで免疫能が確立される。 ワクチンは存在しないが、先天性心疾患など高リスクの乳幼児に対しては、抗 RS ウイルス抗体の投与を行うことがある。
一方、喘息というのは、気管または気管支の慢性的な炎症であり、平滑筋の過形成や粘液の分泌過剰を呈するが、これらの変化は可逆的であるものをいう。 非可逆な変化、すなわち繊維化を来しているものは慢性気管支炎であり、別疾患と考える。 喘息は免疫系、特に好酸球や IgE が関係することが多く、アトピー性喘息などと呼ばれるが、正確にはアトピー性ではなくアレルギー性と呼ぶべきであろう。 なお、免疫系の関与は喘息の定義には含まれず、中には明らかなアレルギー反応を伴わない喘息もある。 この点に注意して考えると、喘息というのも、やはり疾患名ではなく、症候群である。
話が逸れるが、他に閉塞性呼吸器疾患としては肺気腫と気管支拡張症が有名である。 肺気腫とは、肺胞壁の破壊により気腔の拡大を来すもののうち、繊維化を伴わないものをいう。 肺胞壁、すなわち肺間質に繊維化を伴うものは間質性肺炎であり、これも別疾患とみる。 肺気腫と慢性気管支炎は、喫煙などとの関連が強く、しばしば共存することから、慢性閉塞性肺疾患 (Chronic Obstructive Pulmonary Disease; COPD) として まとめて議論されることも多い。 ただし「気管支が繊維化しているもの」である慢性気管支炎と、「肺胞壁が繊維化していないもの」である肺気腫を一緒にしてしまうというのは、 病理組織学的には不自然であるように思われる。 なお、気管支拡張症というのは炎症による平滑筋の破壊により気管支が非可逆に拡張したものをいう。
閑話休題、アレルギー喘息というのは、詳細はよくわからないが、幼少の頃に何らかの事情で免疫系がいささか不適切な格好で形成されてしまったために、 様々な環境因子に対して不適切な免疫応答を来すものであるらしい。 その成立過程には、慢性的な気管支の損傷やリモデリングが関係しているのだろう。 すなわち、乳幼児期に感染等により気管支に炎症を来し、喘鳴が続くことは、喘息の前駆病変であるかもしれないが、 その時点では喘息とは呼ばないのが一般的なようである。
以上のことからわかるように、臨床的には、喘息と急性細気管支炎の鑑別が問題になることは稀である。