これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。
昨日言及した標題の報告について、簡略にではあるが目を通したので、予定を変更して、本報告に対する感想を述べておこう。 この報告においては、昨日言及したような種類の教育隔差の取り扱いの他にも、統計処理上の問題がある。
Gender Gap Index は、Economic, Educational, Health, Political の 4 つの Sub-Index から計算されている。 それぞれの Sub-Index は、いずれも複数の項目についての統計的男女比を元に、重みつき平均を用いて計算している。 重みは、国ごとのばらつきが大きい項目については小さく、ばらつきが小さい項目については大きく設定されている。 これにより、特定の項目だけが Sub-Index に大きな影響を及ぼす事態を避けているのである。
Sub-Index のうち Economic と Political の 2 つは国ごとに大きく異なるのに対し、Educational と Health は、あまり差がついていない。 Gender Gap Index の計算に際しては、この 4 つの Sub-Index について重みをつけずに単純平均しているため、結果的に、 Gender Gap Index は Economic と Political で概ね決定されてしまい、Educational と Health は、あまり影響を与えていない。
結果として不適切に Gap が小さく、つまり実際以上に男女平等であるかのように評価されている国の代表がルワンダである。 この国は Educational は 112 位、Health は 91 位であるが、Economic が 14 位、Political が 7 位と高いために、総合 6 位となっている。 Educational と Health に適切な重みをつけて平均すれば、ルワンダのランクは、もっと下がる。
逆に割をくったのがフィンランドである。この国は Economic 8 位、Educational 1 位、Health 1 位、Political 2 位と好成績であるが、総合ランクは 3 位とされている。 これに対し 1 位とされたアイスランドは、Economic 5 位、Educational 1 位、Political 1 位ではあるが Health が 105 位であり、 フィンランドより上位の扱いを受けるには、ふさわしくないように思われる。
日本は総合 101 位であるが、Educational 84 位、Health 42 位であるから、これらに重みがつけられていれば、もう少し上位に入るはずである。 さらにいえば、この Health 42 位というのも、釈然としない。 Health は Sex ratio at birth と Healthy life expectancy の 2 項目から成っている。 日本は前者が 99 位、後者が 1 位である。 Sex ratio at birth というのは、一部の国において男女の出生数が異常に偏っている、いわゆる `missing women' の問題を表している。 典型的なのが中華人民共和国であって、出生数の女性対男性の比が 0.87 と、かなり男性が多い。 これが中国人の先天的な偏りであると考えるのは無理があり、女児を堕胎しているか、殺害しているか、社会から隔離しているかの、いずれかであろう。 日本においても、女児に対する不法な堕胎が存在する可能性は否定できないが、さすがに稀であろう。 すなわち、日本において Sex ratio at birth がやや偏っているのは人為的なものではなく、Gender Gap を表すものではないと考えられる。
このように、Gender Gap Index には統計上の様々な問題があるし、日本の 101 位は不当に低い評価であるように思われるが、 日本は経済および政治において男女隔差が大きいという点に異論はない。 これは、昨日述べたように、日本においては本当に高等教育を受けている女性が比較的少ないことと、 男は女より上に立つものだとでもいうような不健全な思想が蔓延していることが背景にあるものと思われる。