これは http://mitochondrion.jp/ に掲載している「医学日記」を、諸般の便宜のために、 1 記事 1 ファイルとして形成し直したものです。 簡単なプログラムで自動生成しているので、体裁の乱れなどが一部にあるかと思われますが、ご容赦ください。


2015/11/12 杉晴夫『論文捏造は なぜ起きたのか?』

たまたま、生協書籍部で標題の新書をみつけたので、購入した。 著者の杉氏は、筋肉を専門とする生理学者であり、昨今の日本の科学界のあり方に批判と改革案を投げかける書物である。 標題は論文捏造についてだが、むしろ杉氏が問題視しているのは、いわゆるインパクトファクターなどを用いて研究者を評価したり、 あるいは不適正な方法で研究予算を配分したりといった風潮である。 杉氏の主張としては、こうした風潮は、2004 年の国立大学独立行政法人化以降に強まったという。 杉氏は、かなり辛辣な言葉で批判を述べているが、あまりに適切に攻撃しているので、読みながら、ついニヤニヤしてしまう。 マジメな書物ではあるが、楽しんで読めるので、昨今の大学等のあり方に疑念を抱いている諸君は、ぜひ一度、読まれると良い。

私も、この日記や日常生活において、散々、不満や批判を述べてはいるが、所詮、学生視点の批判に過ぎない。 澱んだ大学の中で四年間も過ごしていると、ひょっとすると私の方が間違っているのではないか、 この名古屋大学方式で世の中はうまく回っていくのではないか、などと思ってしまうことが、時々、ある。 そうした中で、杉氏のような経験豊富な先人からの批判を読むと、我々のような若輩者にとっては、たいへん、励みになる。 こうした援護射撃があれば、我々は、戦っていけるのである。

内容については、一点だけ不満があるが、ひょっとすると、杉氏は若い学生に配慮して、敢えて触れなかったのかもしれない。 すなわち、杉氏が批判するような科学界のあり方に対し、学生があまりに従順である、という問題である。 「現実に教授選はインパクトファクターで決まるのだから、それを稼ぎに行くのは仕方ない」だとか、 「業績は論文で評価されるのだから、論文を書きやすいテーマを選ぶのはやむを得ない」だとかいう発言を、学生の口から聞くことがある。 あるいは、実験等を手伝っただけで、論文の内容に責任までは持てない立場なのに、共著者として学生の名が掲載され、 しかも、それを「自分の業績」として学生自身が誇るような光景も、みられる。

こうした学生の態度は、科学研究に限ったことではない。 臨床医療についても同様なのであるが、夜も更けてきたので、続きは次回にしよう。


戻る
Copyright (c) Francesco
Valid HTML 4.01 Transitional